頼れる獣医が教える治療法 vol.007
私は夜間救急病院で長く院長を務めていたのですが、そこでは「○○を飲み込んでしまった!」と言って慌てて駆け込んでくる患者さんが大勢来院されました。あまりにも多かったので統計をとってみると、なんと1,500件以上経験していました。そのデータを整理して分析していくと、どのような場合にどのような対応が最適かというノウハウが体系的に構築されてきたので、臨床現場の獣医師に向けた講演や、オーナーへの啓蒙セミナーなどを行い社会に還元する活動を行っています。
まず、これは是非オーナーの皆様にも認識しておいてもらいたいのですが、異物誤飲の異物と言っても二種類あります。一つは食道や腸で詰まったり、鋭く尖って胃に穴をあけてしまったりする可能性のある物理的異物。もう一つは薬品や化学物質、更にはタマネギ、チョコ等の薬理的異物、つまり中毒物です。このどちらに属するかで対応が変わってくるのですが、できる対応策はそれぞれ3つしかありません。物理的異物の場合、1.吐かせる 2.内視鏡で摘出 3.手術でお腹を開いて摘出。中毒物の場合、1.吐かせる 2.点滴や解毒剤などの内科治療 3.胃洗浄です。
簡単な三択と捉えられてしまうとそうなのですが、実際はそんなに単純ではありません。その異物を飲み込んでしまってから、何時間経過しているか? その前後にフードを食べているか? 異物の形状は? 噛み砕いて食べたか? 丸飲みか? 持病は無いか? 等々様々な条件が複雑に絡み合うだけでなく、例えば人間用の飲み薬をシートごと食べてしまったケース。これが結構多いのですが、物理的異物でもあり同時に中毒物でもある訳です。そういう様々なケースの中で最適の対応を組み合わせで考えていかなくてはいけないので一筋縄にはいきません。
このインタビューを読んで、「これを飲み込んだ時はこうすればOK!」みたいな必勝法を期待された方には申し訳ないのですが、そんなに単純ではないのです。一例ごとに最適の対応は全て違います。「家でなんとかしたいので対処法を教えて下さい」という電話が時々ありますが、身体検査をしたり腹部X線検査をしたりという状態の把握なしに、電話の話だけで最適の対応は提示できません。それから、3つの選択肢と言いましたが、実はもう1つ。第4の選択肢があることを忘れてはいけません。それは何もせずに待つという選択肢です。
不安でしょうが一番の望みでもあるはずです。無理やり吐かされたり、手術されたりせずに何事も起きなければ、これ以上嬉しいことはありません。要は「これは内視鏡で摘出するのが一番安全だよ」とか「この体重でこの量なら中毒は起こさないから放っておいて大丈夫」とか、専門家によるハッキリした判断をオーナーは欲しがっているはずです。
シンプルですが、多くの経験を蓄積し徹底してデータ化していることです。ただでさえ救急で普通の獣医師では経験できない数の異物誤飲の診察や内視鏡操作を行ってきたという蓄積に加えて、それを頼りに現在も多数の症例が来院されます。それを全て術後の追跡調査まで行いデータを積み上げることで、最適の対応を自信を持って提示できるようになりました。正直に言いますが過去には色々失敗もやらかしましたが、今では判断を誤ることはほぼありません。私が内視鏡で摘出できますと言ったら確実に摘出できますし、逆に何もしないでも大丈夫と言った場合は大丈夫です。
港北どうぶつ病院
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