頼れる獣医が教える治療法 vol.043
ネコの口の中にできるしこりの約80パーセントが悪性腫瘍だと言われています。口腔内にできる悪性腫瘍は、大きくなったり、周辺の組織へ広がったりする(浸潤)速度が早く、完治が難しいがんの一つです。そのため、口の中にしこりができた場合は、ただの口内炎であるのか、腫瘍であるのかを早急に判別することが重要です。良性腫瘍では歯肉腫(エプリス)、悪性腫瘍では線維肉腫、メラノーマ、扁平上皮癌などがあります。特にネコでは扁平上皮癌が多く見られます。
口腔内腫瘍は、口の中を見る機会が少ないため発見が遅れがちになる病気です。「ドライフードを食べるのを嫌がる」「食事のときに頭を振る」「口を気にして掻く」「よだれに血が混じっている」「首を傾けたままじっとしている」などの症状がありましたら、早めに病院にご相談ください。
視診では腫瘍の種類を特定できないので、腫瘍の一部を切り取り、病理診断をして腫瘍の種類や悪性度を評価します。また、レントゲンや必要に応じてCT撮影をすることで、腫瘍の広がりを確認します。
扁平上皮癌は、ほかの臓器への転移は少ないですが、進行が早く、骨の中にも浸潤して激しい痛みを引き起こします。無治療での平均生存期間は3か月であり、非常に予後の悪いがんです。進行すると、口腔内が膿んで悪臭を放ち、痛みからごはんが食べられなくなり衰弱死につながります。ネコちゃん自身にとっても看護をするオーナー様にとっても辛い病気です。腫瘍のある場所や進行度合いにより、治療方法と治療目的が変わります。
外科手術が第一選択となり、早期に手術を行うことで腫瘍をすべて切除することが理想です。ですが、扁平上皮癌は口の中のどこにでも発生するので、切除できない部位にできることもあります。外科手術が難しいケースや、骨の中で広範囲に浸潤してしまっているケースでは、放射線療法も検討します。
扁平上皮癌は、残念ながら既に完治が目指せない状態で見つかることも多くあります。その場合は、QOLの維持と痛みの軽減を目的として、安らかに命をつないでいく緩和療法を選択します。「手術を行うか」「残された時間をどのように過ごしていきたいか」など希望を伺いながら、オーナー様と一緒に治療計画を立てていきます。
さだひろ動物病院
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