ペットのため学び続ける、皮膚とエイジングケアのスペシャリスト
長年信頼を寄せられている皮膚科系疾患の治療に加え、ペットのエイジングケアにも力を入れています。
- 北川犬猫病院 東京都板橋区南常盤台
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- 後藤 慎史 院長
頼れる獣医が教える治療法 vol.072
目次
COVID−19と同じコロナウイルスの一種である「ネココロナウイルス」によって引き起こされる病気です。ネココロナウイルスは多くの猫の腸に常在しているのですが、これが何らかの原因で血液中に移行して、マクロファージと呼ばれる免疫細胞に感染すると、体内の免疫機能が暴走。腹水や胸水が溜まったり、さまざまな臓器に肉芽種と呼ばれるしこりができたり、麻痺や痙攣などの神経症状が現れたりします。2歳未満の若い猫がかかることが多いのですが、発病すると1〜2週間のうちに、ほぼ100%の確率で死に至る病気だったため、最近まで治療の対象とされてきませんでした。
有効な治療薬の登場により、FIPは治すことのできる病気となりつつありますが、発病に至るまでの詳細な機序は、現在も分かっていません。「多頭飼育によるストレスが原因ではないか」「十分な母乳を与えられなかったのが原因ではないか」といった説もありますが、あくまで“説”にすぎません。当クリニックでは年間100件のFIPの診断・治療に当たっていますが、十分な母乳を飲んで育った一頭飼育の猫がFIPに感染するケースもあります。どのような猫も感染の可能性があると認識しておくべきでしょう。
身体検査所見や血液検査、PCR検査、レントゲン検査や超音波検査などの結果を総合的に考慮して診断を行いますが、確定診断は容易ではありません。明らかにFIPの症状が出ているのにもかかわらず、腹水を抜いてPCR検査を行ってみると陰性というケースもありますし、PCR検査で陽性が出ているのにFIPの症状がほとんどみられないといったケースもあるからです。しかし、検査結果が出るのを待っている間に、この疾患はどんどん進行してしまいます。確定診断がついていなくとも、FIPと思われる症状が出ていたら即座に治療を始めるべきです。その意味で、FIPに関する豊富な知識と経験を兼ね備えた獣医師の診察を受けることが極めて重要なのですね。
FIPは、「早期発見・早期治療」に尽きます。代表的な症状としては食欲不振や発熱、体重減少などがありますが、子猫の様子が「なにかおかしい」「いつもと違う」と思ったら、すぐに動物病院に相談するべきです。体重を測ることを毎日の習慣にし、減少した時は速やかに動物病院の診察を受ける。「風邪をひいているのかな」「去勢して落ち着きが出てきたのかな」などと、楽観的に捉えないことが大切です。そして診察の結果、FIPだと分かったら“ラッキー”だと考えるようにしましょう。類似の症状が出る猫白血病やリンパ腫などに比べ、FIPは“適切な”治療ができれば治癒する可能性が高いからです。
FIPの治療法、とりわけ治療薬に関しては、当院でも長年試行錯誤を続けてきました。2021年からは、ヒトのCOVID−19(新型コロナウイルス感染症)の治療にも使われる、「モルヌピラビル」という飲み薬を使った治療を行っています。猫に合わせた小さめの錠剤を院内調合し、飼い主さまの協力を得ながら治験を進めた結果、FIPの進行度に応じた最適な投与量や投与間隔、治療期間なども分かってきました。詳細については米国獣医内科学会誌に掲載された単著論文にまとめましたが、標準治療期間は84日間、全体の約8〜9割で寛解に持ち込むことができています。
ここで声を大にしてお伝えしたいのは、【モルヌピラビルを投与するだけでFIPの治療がうまくいく、というのは誤解である】ということです。
モルヌピラビルは免疫機能の暴走を食い止める薬ではなく、コロナウイルスの複製を阻害する薬です。寛解に持ち込むためには、病気の進行度に合わせ最適な量を最適な間隔で投与する必要がありますが、それに加えて非常にきめ細かな体調管理が必要なんですね。当院ではアンケートツールを使って、モルヌピラビルを投与した量や時間、体重や体温、活動量などを飼い主さまに詳細に記録してもらい、報告をいただいています。これを約6か月間、毎日続けてもらい、少しでも異常が見つかった場合には、すぐに次の手を打ちます。ある意味で、飼い主さまにいかに頑張ってもらうかが重要なんです。
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長年信頼を寄せられている皮膚科系疾患の治療に加え、ペットのエイジングケアにも力を入れています。
飼い主様だけでなく、地域の獣医師からも紹介先として頼りにされる、外科治療専門の動物病院です。
発症後の致死率は9割を超える猫伝染性腹膜炎(FIP)。豊富な治療実績を基に、難病から愛猫を救います。