犬猫の肝臓機能低下に対する診断と「門脈体循環シャント」の治療
初期には無症状であることも多い、犬や猫の肝疾患。血液検査や画像診断、腹腔鏡下での検査が有効です。
- 船橋どうぶつ病院 千葉県船橋市
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- 守下 建 院長
頼れる獣医が教える治療法 vol.083
目次
犬猫の肝臓疾患については、肝臓実質(主に肝臓の機能を担う肝細胞)の疾患として、慢性肝炎や急性肝炎、胆管肝炎、肝硬変や肝臓腫瘍、肝臓に流入する血管の疾患として、門脈体循環シャント(以下、門脈シャント)などが挙げられます。一般的な症状は、元気がなくなる、食欲低下、嘔吐や下痢などですが、急性肝炎のようなはっきりした症状が現れる疾患ばかりではありません。犬・猫の肝臓も、人間と同様に「沈黙の臓器」と呼ばれており、初期には無症状で経過するケースも多いものです。しかし病状が進行すると、発作といった神経症状や黄疸、腹水、低血糖などが現れ、最悪の場合は命に関わってしまいます。
なお肝機能の低下が疑われる場合には、絶食時と食後2時間で血液検査を行って、アンモニア及び総胆汁酸(TBA:肝臓でコレステロールから生成される胆汁酸の量を測定した値で、肝臓・胆道疾患に関する特異的マーカーとして利用できる)を測定します。数値に異常がみられた場合には、肝臓実質の疾患や門脈シャントといった血管の疾患が考えられ、レントゲンや超音波検査、CTによる画像診断を行ったり、腹腔鏡下での肝生検などを行ったりして診断を行います。避妊・去勢手術などの麻酔が必要な手術の前には血液検査を行うのですが、偶然その際に肝臓の疾患が見つかることも珍しくありません。
腸で消化吸収された栄養や老廃物を含んだ血液が、異常血管(シャント血管)を通ることで、肝臓を経由せず全身へと流れてしまう疾患です。通常、栄養や老廃物を含んだ血液は「門脈」と呼ばれる血管を通って肝臓に送られ、肝細胞によってアンモニアなどの有害物質を解毒した上で、肝静脈を通じて全身に運ばれていきます。しかし「門脈シャント」では、解毒されないままの血液が全身を巡ることになり、発育不良や消化器症状、神経症状などを引き起こしてしまいます。
大きく分けて、「先天性」と「後天性」の2種類です。先天性の門脈シャントは、門脈と大静脈を直接つなぐ異常血管が、生まれつき1〜2本形成されることで発症します。子犬・子猫のうちから発育不良などの症状が現れるケースもありますが、手術によって異常血管の血流を遮断することで根治可能なケースが少なくありません。
一方、後天性の門脈シャントは、慢性的な肝疾患等によって肝臓へ流入する門脈の血流が滞り、血液の逃げ場がなくなることで門脈内の圧力が上昇し、血流の迂回路として微小な異常血管が多発的に形成されることで発症します。このタイプは外科的な治療が困難なため、肝機能の維持等を目的とした内科的な治療がメインとなります。
シャント血管の血流を止め、本来の「腸から肝臓へ、門脈を通って血液が流れる」ようにすることが目標となります。一度の開腹手術でシャント血管を結紮するのが理想的ですが、肝内門脈の発達が不十分な場合、シャント血管の血流をいきなり止めると門脈圧が異常に上昇してしまい、後天性の門脈シャントを引き起こすリスクがあります。そのため、門脈の発達状況や手術中の門脈圧に応じて、さまざまな術式を使い分ける必要があります。
滅菌したセロハンを異常血管に巻き付けて、セロハンに対する炎症反応によって徐々に血管を塞いでいく術式や、水分を吸収して膨張するドーナツ状の血管閉塞具「アメロイドコンストリクター」をシャント血管に装着し、時間をかけて血管を閉塞していく術式があります。また手術中に門脈圧が高ければ、圧が上がりすぎない程度にシャント血管を一部分ゆるく結紮し、逆に門脈圧が全く上がらず、肝内門脈がしっかり発達している場合には、完全結紮を実施します。したがって、1回の手術で終えることができるケースもあれば、2回以上に分けて手術するケースもあります。
また、5歳以上になると突然死や手術後の発作リスクが高まる可能性があるため、臨床症状がなければ内科治療で様子をみる事が多く、可能ならば若齢での手術をお勧めしています。
症例にもよりますが、毛刈りから麻酔が覚めるまで、トータルで2〜3時間を想定してください。なお術後ですが、シャント血管を完全に結紮した場合でも、肝臓に優しい食事を与えつつ投薬と肝機能検査を定期的に実施し、数値が安定して正常値に近づいてきたら段階的に減薬していきます。手術から数か月後に最終チェックを行い、異常がみられなければ治療終了です。
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初期には無症状であることも多い、犬や猫の肝疾患。血液検査や画像診断、腹腔鏡下での検査が有効です。
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