犬と猫のがん治療の新しい選択肢「電気化学療法」
体表の悪性腫瘍に電気パルスを与え、抗がん剤の効果を局所的に増強する「電気化学療法」を提供しています。
- 新習志野どうぶつ病院 千葉県習志野市
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- 愛宕 哲也 先生
 
 
					
					
					
				頼れる獣医が教える治療法 vol.086
			目次
ヨーロッパ発祥の治療法であり、悪性腫瘍に対する局所治療として位置付けられています。治療の流れとしては、まず抗がん剤を静脈内もしくは腫瘍内に投与した後、特殊な装置に搭載された専用の電極を腫瘍の形成部位に直接当て、電気パルスを流します。すると細胞膜の透過性が一時的に高まり、抗がん剤が腫瘍細胞の内部に取り込まれやすくなるのです。この原理を活用し、悪性腫瘍の縮小・寛解を目指すのが電気化学療法です。腫瘍内における薬剤の効果を最大5000倍まで高めることが確認されており、これまで手術以外に有効な治療法がみつかっていなかった腫瘍や、従来の抗がん剤治療では効果が乏しいとされていた腫瘍に対しても、少量の薬剤で十分な抗腫瘍効果を期待できることがわかっています(Clinical Aspects of Electroporation, Lee ST, Gehl J, Lee EW (eds.), 2011)。
いちばんの違いは、電気化学療法が局所治療だという点ですね。従来の化学療法(抗がん剤治療)は、主に血液腫瘍を代表とする全身性の腫瘍に対してや、手術後に他臓器への転移を抑制する目的でおこなわれています。腫瘍細胞に届く抗がん剤の量が多ければ多いほどその効果は高まりますが、正常細胞にもダメージを与えてしまうので、効果に比例して副作用が強く出てしまいます。そのため「抗がん剤治療で十分な効果が得られる腫瘍はかなり限られている」というのが、獣医療の常識だったのです。
この点、電気化学療法は、腫瘍が存在する部位の抗腫瘍効果を局所的に高める治療法なので、全身への副作用が非常に少ないのが特徴です。施術部位の発赤や浮腫などの炎症反応、まれに壊死がみられることもありますが、飲み薬や包帯による管理で対応できるレベルに留まるケースがほとんどです。施術時は全身麻酔が必要となりますが、一般的な外科手術に比べると麻酔深度は浅いですし、施術時間も短いので負担は少ないといえるでしょう。また、治療費が高額となることの多い放射線治療に比べて、コスト面に優れているという点も良いところです。
犬の場合は肥満細胞腫や扁平上皮癌、悪性黒色腫(メラノーマ)や軟部組織肉腫、棘細胞性エナメル上皮腫など、猫に関しては肥満細胞腫や皮膚扁平上皮癌で、腫瘍の縮小効果が得られたというデータが確認されています。このほかに、手術によって腫瘍を切除したあと、肉眼ではわからないレベルの腫瘍細胞が残存している可能性がある場合、再発防止のために実施することもあります。電気化学療法を施術可能な部位は今のところ体表からアクセスできる場所に限られていますが、こうした顕微鏡的病変に対する効果は、ほぼ全ての腫瘍で期待できるでしょう。
午前中にワンちゃん・ネコちゃんをお預かりして治療を実施し、夕方にはご自宅にお戻りいただけます。治療頻度に関しては、新しい治療法だけに明確な基準が定まっておらず、個々の症例ごとに判断しています。目に見える腫瘍の縮小を期待する場合、2〜4週間の間隔で2〜4回ほど実施するケースが多いですね。
口腔内メラノーマを手術で完全切除するには、顎骨の一部を除去するような大掛かりな手術が必要になることも少なくありません。また腫瘍が上顎に形成された場合には、完全切除そのものが難しいケースもあります。近年、4cm未満の口腔内メラノーマ67例に電気化学療法を実施した結果、21%で完全寛解、49%で部分寛解が得られたというデータが海外から報告されています(Tellado MN, Radiol Oncol, 2020)。これは、電気化学療法が口腔内メラノーマの治療において、新たな選択肢となり得ることを示しています。
皮膚扁平上皮癌も、形成される部位によっては、やはり手術による完全切除が困難な場合があります。特にまぶたに形成された場合、眼球を一緒に摘出しなければならないケースも少なくありませんが、電気化学療法をおこなえば、眼球を温存して腫瘍の完治を目指すことも可能です。実際、海外のデータでは、猫の皮膚扁平上皮癌に対して電気化学療法をおこなった際の総奏効率は80〜100%とされており、非常に有効な治療法であることが示されています(Spugnini EP, Vet J, 2009など)。
		
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