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- 田中 那津美 院長
頼れる獣医が教える治療法 vol.061
目次
東京大学獣医内科学教室と附属の動物医療センターで、リンパ腫の診断と治療に従事していました。リンパ腫は多数のタイプがあり、無治療経過観察でよいもの、治療をしても生存期間が2~3か月のものなど、それぞれ治療方法や予後が異なります。そのため、院内で行う細胞診検査や、専門機関で行う病理組織学的検査、免疫組織化学検査、遺伝子検査などでタイプを細分類する必要があるのです。大学ではこれらの検査を担当し、1,000頭以上の子の診断や治療に携わりました。また、抗がん剤治療はもちろん、抗がん剤を使わない治療についても最新の知見を得ました。
注射針で細胞をとって観察する細胞診では、悪性度や予後の予測が可能です。診察当日に治療の選択肢をお伝えできるので、気になる症状があればご相談ください。
血液細胞の一種であるリンパ球が腫瘍性に増殖しておこる様々な病態を含む疾患群で、犬猫ともに中高齢で発生が増える病気です。腫瘍の発生部位、細胞の種類や形態、組織の形態によって細かくタイプが分かれ、「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」のように分類します。リンパ腫は全身どこにでも発生し、体表のリンパ節に発生すれば多中心型、胃腸管や腹腔内リンパ節なら消化器型と呼びます。また、免疫学的表現型では、腫瘍細胞がB細胞あるいはT/NK細胞由来であるかを分類します。細胞の形態からは悪性度が診断できます。幼若なリンパ球が腫瘍化した高悪性度の場合は進行が早く、低悪性度の腫瘍に比べ抗がん剤に反応しやすい傾向があります。タイプを早期に診断して、今後の治療方針を考えていくことが重要です。
下顎や肩の横の浅頸(せんけい)、膝の後ろの膝窩(しっか)などの体表リンパ節に発生します。初期はリンパ節が腫れるだけで症状がないことが多いですが、たとえばリンパ腫が進行し下顎リンパ節が腫れあがると、頚部圧迫により呼吸や嚥下に影響します。また、リンパ腫は血液のがんなので全身に浸潤していきます。
高悪性度リンパ腫ではびまん性大細胞型B細胞リンパ腫という抗がん剤に比較的反応するタイプが多く、約90%の子で寛解に達します。しかし、多くの症例で再発し、生存期間の中央値は300日程度です。一方で、低悪性度T細胞リンパ腫の一種であるT領域リンパ腫というタイプは進行が遅く、生存期間は600日以上あり、治療も異なります。
犬猫ともに消化管に発生する腫瘍の中で、もっとも発生頻度の高い腫瘍です。食欲不振や嘔吐、下痢、体重減少といった症状が現れることが多く、これらの症状は食物アレルギーや感染症、内分泌疾患など様々な病気でも認められるので、症状だけでリンパ腫を疑うことは難しいです。「膵炎や炎症性腸疾患の治療をしているが良くならない」といったセカンドオピニオンの相談からリンパ腫が見つかることもよくあります。
高悪性度の場合は抗がん剤治療に全く反応しない症例も多く生存期間は2〜3か月、低悪性度の場合は1〜2年となりますが、高悪性度でも寛解して数年単位で長生きする子もおり、タイプや個体による差が大きい病気です。
タイプごとに異なりますが、悪性度によって治療方法の傾向が分かれます。高悪性度の場合は多剤併用化学療法という複数の抗がん剤を注射で投与する治療が多く、低悪性度の場合はステロイド単独や内服タイプの抗がん剤を使う治療が多いです。
抗がん剤はがん細胞だけを狙うのではなく、細胞が活発に増殖する場所に作用します。そのため副作用として、腸の絨毛に作用して下痢や吐き気を起こす消化器毒性や、血液を作る骨髄に作用して白血球や血小板が減少する骨髄抑制といった症状が出やすい治療です。抗がん剤投与後は、効果や副作用の状態をよく確認して薬の量や種類を調整することが重要です。
患者様とオーナー様の生活の質を可能な限り保ちながら、ご希望に添える最善の治療を一緒に模索し決定しています。残念ながら現在の獣医療ではリンパ腫の完治は難しく、寛解やQOLの改善、延命が治療の目標です。副作用や金額面など、オーナー様も心配されることが多いでしょう。抗がん剤治療はCHOPプロトコールなどの定められたスケジュールで投薬しますが、副作用が強く出た場合や、治療費を毎週払い続けることが難しい場合は、投与量を減らす、数週間に一度ですむ抗がん剤に変更するといった方法もあります。オーナー様の不安を解消し、納得のいく治療を選択してもらえるように努めています。
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血液系疾患患者のための輸血外来を設置。腫瘍や慢性疾患等のセカンドオピニオンにも積極的に対応します。
ペットと長く楽しく過ごせる治療を選択するために、高度な機器と技術で消化器型リンパ腫を診断します。
ペットにも起こる、腎不全と心腎関連症候群。細やかに状態を把握し、適切な治療を行う必要があります。