犬の跛行(足を挙げる)には注意。前十字靭帯断裂の診断と治療
多くの要因により発症リスクの高まる、犬の前十字靭帯断裂。丁寧な診察による的確な診断が重要です。
- ⻘葉どうぶつ医療センター 神奈川県横浜市青葉区
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- 林 佑将 院長
頼れる獣医が教える治療法 vol.080
目次
私は幼少期から動物が好きで、動物に関わる仕事につきたいという思いから獣医師を目指すようになったのですが、短時間で劇的な回復が期待できる小動物外科に強く興味を惹かれました。そして獣医師になった現在でも、日本小動物外科専門医協会が若手を育成するために実施している外科レジデントプログラムで学び続けているほか、海外で行われるセミナーへの参加や症例の研究などを通じて、知識・技術のアップデートを心がけています。
動物医療の外科診療の中で、主に整形外科、脊髄外科、腫瘍外科の3つに対応できることが当院の強みといえるかもしれません。もちろん内科にも力を入れており、再生医療など幅広い治療を提供しています。
膝には脛骨(すねの骨)と大腿骨をつなぐ「前十字靭帯」と呼ばれる靭帯がありますが、ここは加齢や解剖学的特徴などによって脆くなりやすいのです。そのほか肥満、遺伝、性ホルモンなどの影響も受けて、やがて断裂してしまうのが「前十字靭帯断裂」です。徐々に傷んで断裂に至ったり、遊んでいる時に急な衝撃を受けて一気に断裂してしまったりとさまざまなケースがありますが、犬が突然足を挙げるようになったら速やかに受診してください。
飼い主様から「歩き方がおかしい」という相談を受けた際は、その様子をスマホなどで撮影していただくようお願いしています。その動画をスロー再生しながら、どの足に問題があるのかや、どのようにおかしいのかを確認します。診察台の上ではわからないことが実際に歩く姿から見えてくることも多いですし、そもそも不調を来している足は1本だけではないかもしれません。
そして最も大切なのは、「足の不具合が何によって起こっているのか」をしっかりと調べることです。犬の前十字靭帯断裂はよくみられる疾患ですが、骨のがんやリウマチなどが原因で足を挙げることもあります。ですから初診の際は丁寧に触診を行うとともに、レントゲンやエコーを用いた検査のほか、リウマチが疑われる場合は血液検査も行い、異常の原因究明を図っています。前十字靭帯断裂自体は命にかかわる病気ではありませんので、それよりも優先して治療すべき疾患を発見したならば、そちらから手をつけなければなりませんからね。ちなみに、がんなどの疾患が見つかった場合は、がんの治療を優先しなければなりません。
基本的には手術になりますが、麻酔前検査を行った上で、麻酔や予後のリスクについて飼い主様と話し合い、手術を見送り保存治療を行うこともあります。まだ若く前十字靭帯以外に問題がない場合は、診断時から出来るだけ早期に手術を行います。当院では「TPLO(Tibial Plateau Leveling Osteotomy)」という90年代にアメリカで開発された術式を採用しており、世界的な治療実績を見ても最良の選択肢と考えています。
日本語で「脛骨高平部水平化骨切り術」という、脛骨の一部を切り回転させ、大腿骨と関節でつながっている部分の角度を調整し、ボルトとプレートで固定する手術です。もともと犬は脛骨の関節面が斜めなので、脛骨と大腿骨が滑りやすく、それらをつなぐ前十字靭帯に負担がかかりやすい構造になっています。脛骨の関節面を切って水平にすることで、術後の安定性が高くなるのがメリットです。
断裂した靭帯の代わりに大腿筋膜を移植する手法などもありますが、その筋膜は数か月で消失してしまうため根治には至りません。前十字靭帯を再建するのではなく、前十字靭帯がなくても大丈夫な足にしようというのが、TPLOの考え方です。
TPLOは全身麻酔で行いますので、麻酔前検査を実施することになります。食事をとると腎臓の数値などに影響を与えてしまうことがあるため、手術当日はなるべく食事を控えてください。術後は5〜7日ほど入院していただきます。退院後は、適宜傷口に軟膏を塗っていただきつつ、ケージなどで安静にさせてください。退院から1週間後に抜糸、1か月後に再診。そこで問題がなければ完治となりますので、好きなだけ走り回らせてあげて構いません。
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多くの要因により発症リスクの高まる、犬の前十字靭帯断裂。丁寧な診察による的確な診断が重要です。
犬猫別の入口、専用待合室と診療室を備えつつ、森の中のような環境でお待ちしています。往診も対応します。
予約診療制で時間をかけてじっくり対話し、飼い主様と動物の立場で診療することを大切にしています。