救える命のために手を尽くす、供血犬のいる動物病院
血液系疾患患者のための輸血外来を設置。腫瘍や慢性疾患等のセカンドオピニオンにも積極的に対応します。
- クレア動物病院 大阪府大阪市天王寺区
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- 田中 誠悟 院長
頼れる獣医が教える治療法 vol.035
目次
リンパ腫は白血球の一種であるリンパ系の細胞(リンパ球)が「がん化」することで起こります。中高齢で発生しやすく、犬では3番目に多い腫瘍です。ヒトのリンパ腫は完治する病気になってきていますが、獣医療では完治が難しく、治療の目的は延命が中心となります。1年生存率は50%、2年生存率は20~25%程度ですが、当院では7年間治療を続けているワンちゃんもおり、個体差があります。
リンパ腫は遺伝子検査や免疫染色、細胞診などで診断しますが、リンパ節ごと切除することもあれば、注射針で細胞を採取することもあり、その子の状態に配慮して検査を実施しています。
検査の結果をもとに、がん化した細胞の種類、悪性度によって、「B細胞ハイグレードリンパ腫」のように分類します。また、発生する部位によって、全身のリンパ節が腫れる「多中心型」や「消化器型」「皮膚型」などに分類しますが、体表のリンパ節だけが腫れているようにみえても、実際は消化管や脾臓もがん細胞に侵されていることが多いです。
この腫瘍の分類を把握することが、良い治療につながるのです。どのタイプのリンパ腫でどこまで広がっているかを正しく評価しないと、副作用が強く出たり状態が悪化したりする恐れがあるので、慎重に診断をしたうえで抗がん剤を選択しています。たとえば、未分化の細胞が増えるタイプでは、増殖スピードが早いので「一気にがん細胞を叩く」薬を使用し、成熟した細胞が増えるタイプでは「じわじわとがん細胞をやっつける」薬を使用します。
多剤化学療法という、複数の抗がん剤を組み合わせた治療を行います。ネコの鼻腔内リンパ腫や消化管型を除き、外科手術や放射線治療をするケースはあまりありません。
どの薬をどれぐらいの量、ペースで投薬していくかの治療計画(プロトコール)に合わせて、週1回ほど来院していただきます。一般的な治療計画では1週間ごとに異なる薬を4種類投与し、休薬期間をはさみ、同じサイクルを4回繰り返します。投薬の前には血液検査やエコー検査を行い、体の状態や薬の効果を確認します。薬の種類によって異なりますが、病院の滞在時間は1時間程度です。
以前、「教科書通り」の治療を行っていたときに、飼い主様から「もう抗がん剤治療はやらない。長生きはしたけれどかわいそうだった」と言われたことがありました。治療は「成功」していても、飼い主様が望んでいたことが理解できていなかったのです。これがきっかけで、「生活の質を維持する治療」と本気で向き合うようになりました。
治療の副作用により、ずっと吐き気があって食欲がないというのは、良い長生きの仕方ではありません。ご飯をしっかり食べ、散歩もして、普通のワンちゃんネコちゃんと変わらない生活を送れるようにすることを大事にして、現在は治療を行うようにしています。
はじめて抗がん剤を投与する時が、もっとも注意が必要です。特に消化管にがん細胞が広がっていると副作用が大きく出やすくなります。抗がん剤の種類や量を調整するだけでなく、吐き気止めや食欲増進剤も併用することで、生活の質を上げる工夫をしています。
その時点で判明していることや今後の検査、治療などをお話ししますが、急にがんの話をされても「頭が真っ白でなにも考えられない」というのが正直なお気持ちかと思います。ですので、診察内容をまとめたものを診察後にメールでお送りしています。少しでも疑問があれば質問をいただき、返信をする。このように、できるだけ正確な情報をお伝えして、こちらの思いも理解していただくことを大切にしています。
治療や検査の内容についても飼い主様とよく話しあって決めます。抗がん剤は定期的に投与をしたほうが効果を望めますが、1回数万円する薬もあり、安価な治療ではありません。毎週の投与が難しい場合には、「この薬だけ月に1回投与しましょう」と決めることもあります。後悔を残さず、「この治療をしてあげた」と納得できるように、飼い主様の来院頻度や費用に合わせて、できることを一緒に考えています。
祖母が多発性骨髄腫を患ったことで腫瘍の勉強をはじめ、腫瘍科の廉澤剛教授や内科の打出毅教授とご縁があり、酪農学園大学と北里大学で勤務をしていました。腫瘍と循環器に関わる物質を研究し、大学病院では内科、外科と幅広く診療をしました。二次診療での経験を地域に還元していきたいと思っています。
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血液系疾患患者のための輸血外来を設置。腫瘍や慢性疾患等のセカンドオピニオンにも積極的に対応します。
ペットと長く楽しく過ごせる治療を選択するために、高度な機器と技術で消化器型リンパ腫を診断します。
ペットにも起こる、腎不全と心腎関連症候群。細やかに状態を把握し、適切な治療を行う必要があります。