頼れる獣医が教える治療法 vol.032
てんかんは発作を繰り返し起こす、脳の慢性的な病気です。皆さんが想像される「突然倒れてけいれんする」という状態は、てんかんの代表的な症状です。脳の中の神経細胞は電気を使って情報をやりとりしていますが、てんかん発作はこの神経細胞に突然電気的な乱れが生じることで起こります。人では世代を問わず100人に1人の割合で発症することが知られていますが、猫や犬ではより頻度が高く、100頭に5頭がてんかんを抱えているといわれています。てんかんは特別な病気ではなく、身近な病気なんです。
てんかんは外見から病気であることが分かりにくく、発作を起こしていなければ健康な子と見分けることはできません。突然倒れて全身けいれんを起こす場合は気づきやすいのですが、からだの一部分だけがほんの数秒間ピクピク動くといった場合にはてんかんだとは気づかずに長年過ごしているケースも多いです。
診断には、まず本当にてんかん発作なのかを評価し、次にMRIを使用して可能な限り原因の特定を進めていきます。一番重要なことは発作時の様子を正確に把握することで、症状や持続時間、発作後の様子について根掘り葉掘り聴き出します。最近は発作の様子を撮り貯めているご家族も多く、一緒にスマホを眺めながら情報共有する機会が多くなりました。
治療の基本は抗てんかん薬の内服になります。最初は1種類の薬で治療をおこないますが、症状に応じて増量したり、2種類以上の薬を組み合わせたりすることもあります。
通常は半年に2回以上、発作が繰り返すことを確認して治療を開始します。「しばらく様子をみましょう」を繰り返した結果、投薬開始が遅れてしまうことは避けなければなりません。「てんかん重積状態」と呼ばれる発作が長時間続く場合や、短期間に連続して起こる「群発発作」の場合には、すぐに治療が必要です。
薬の種類によっては副作用があるので、治療効果と患者を含めたご家族のQOLとのバランスを見極めることが大切です。治療のゴールは発作をゼロにすることですが、現実的には頻度と持続時間を軽減させることが目標となります。特発性てんかんの70~80%で発作が軽減し、日常生活を送ることが可能です。
従来の抗てんかん薬に療法食やサプリメントを併用することで発作頻度の軽減を期待できることが海外の研究報告で明らかにされています。薬だけでコントロールが困難な特発性てんかんの犬に対して、中鎖脂肪酸(MCT)や抗酸化物質を多く含む療法食への切り替えや、CBD(カンナビジオール)などのサプリメントの使用を取り入れています。
近年、国内の大学病院では外科手術により発作頻度の軽減を試みる新しい取り組みも始まっており、当院から紹介する体制も整えています。
かば動物クリニック
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