羽根木動物病院 有井 良貴 院長 | ドクターズインタビュー

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頼れる獣医が教える治療法 vol.050

犬・猫の腎臓病。間違えやすい病気、症状と治療法
腎・泌尿器系疾患
犬・猫の腎臓病。間違えやすい病気、症状と治療法
羽根木動物病院
  • 有井 良貴 院長
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世田谷区新代田駅から徒歩10分にある羽根木動物病院は腎臓病の治療に力を入れる病院だ。「1つの検査項目で診断せずに多角的に判断することが重要」と話す有井良貴院長のもとには、全国各地から悩みを持つ飼い主が訪れる。「症状がないのに腎臓病なのか」「点滴をずっと続けないといけないのか」など飼い主の疑問や不安は幅広い。腎臓病は進行性の病気であるため早期発見早期治療が重要であるが、クッシングや尿管結石など、別の病気と誤診をされているケースもあるという。腎臓病は主に高齢で発症するため、併発する病気や生活環境を考慮した治療が大切だ。「腎臓病と言われても相談をしてほしい」と話す有井院長に腎臓病について話を伺った。(取材日 2020年11月16日)

腎臓病は複数の検査が大事。血液検査だけでは誤診の可能性も

― 犬や猫の腎臓病について教えてください。

腎臓病は特にネコの発症が多く、腎機能が低下することでさまざまな弊害を及ぼす病気です。はじめに多飲多尿の症状が現れ、進行すると腎臓から老廃物が排出できなくなり、食欲低下や吐き気、体重低下といった尿毒症の症状も現れます。尿路閉塞や薬物などにより急激に体調が悪くなる急性腎不全の場合は、原因を取り除くことで完治が可能です。一方、加齢や食事などの影響で徐々に腎機能が低下する慢性腎不全の場合は、不可逆性の病気であり完治が難しくなります。多飲多尿といった症状は気づきにくいので、定期的に検査を行い早期発見することが重要です。

― セカンドオピニオンではどのような相談を受けますか?

「点滴はしないといけないのか」「腎臓食を食べてくれない」といった相談が多いですね。腎臓病の治療に限りませんが「この治療しか方法はない」ということはありませんので、飼い主様の疑問を解消し、その子にできる治療を提案しています。
実際には、検査を行うと腎臓病ではないケースや治療を必要としない段階であるケースが半数程度みられます。BUNやSDMAといった血液検査の1項目だけが高くなっていることから腎臓病だと誤診されているのです。腎臓病の治療に力を入れるようになって初めて気づいたことですが、誤診が多いことに驚いています。

― 誤診の場合、どのような病気と間違われているのでしょうか?

イヌではクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)や甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、ネコでは尿管結石や心疾患が多いですね。
SDMAという血液検査の項目は、腎機能の低下を早期発見できる検査として腎臓病の診断に広く使われていますが、内分泌疾患でもSDMAの値が上がることはあまり知られておりません。そのため誤診されやすいようです。内分泌疾患の子に対して腎臓食を処方すると、肝障害を悪化させることもあるので注意が必要です。
ネコでは、超音波検査を行うと尿管結石が見つかることが多いですね。石を取り除くだけでは再発をしたり、尿管が線維化して再び詰まったりしますので、当院では尿管をつなぎ直す手術を中心に、人工の尿管であるSUBシステムなどの手術も実施しています。

腎臓食や点滴だけではない。生活環境、持病に考慮した腎臓病の治療を提案

― 腎臓病が疑われる場合どのような検査を行うのでしょうか?

血液検査、尿検査、腹部の超音波検査、血圧測定は最低限実施しております。これらの検査をすでに受けている方もいるかと思いますが、血液検査の項目で異常値が1回出たからといって、すぐに食事療法や点滴が必要となるわけではありません。慢性腎不全であれば、同じ病態が3か月以上続いた時点で腎臓病であると診断ができます。
また当院ではセカンドオピニオンの方には絶食後に来院をしてもらっています。血液検査のBUNは食事の影響を大きく受けますし、尿検査のUPCは興奮するだけでも簡単に数値が上がります。そのため1回の検査では診断ができないこともあるのです。

― 腎臓病の治療について教えて下さい。

腎臓病の治療でできることはいくつもあります。早期発見できれば、治療をせずに経過観察して、定期的に検査に来ていただきます。治療が必要になれば、食事療法やリン吸着剤、血管拡張薬などを使用します。症状により定期的な点滴が必要になる子もいます。
新しい治療法として再生医療も取り入れています。ネコの多発性嚢胞腎やイヌの糸球体腎炎など、免疫が関係する病気に対して有効であるとのデータも出ておりますのでご相談ください。

― 食事療法や点滴は飼い主様の負担も大きいかと思いますが、いかがでしょうか?

嫌がっている子に点滴をするのは飼い主様も心が折れてしまうことがほとんどです。脱水を起こしている場合などは皮下点滴が必要ですが、その前の段階であれば経口での水分摂取やほかの投薬治療により、点滴をしなくとも問題がないこともあります。点滴が必要な子であっても回数が減らせるよう工夫しています。
腎臓食を食べてくれないのであれば、半分はいつもと同じご飯をあげたり、リン吸着剤を添加したりするなど、別の手段を取ることも可能です。腎臓病の治療において食事療法は重要ですが、そこに囚われすぎる必要はありません。腎臓食は、脂肪が多くタンパクが低いご飯なので、膵炎や筋肉量の低下といったリスクも持ち合わせます。腎臓病以外の病気を併発している子では、ほかの弊害が出る恐れもあります。
またご自宅での投薬も治療の要です。錠剤、粉薬、液体など薬の形状も複数あります。腎臓病は治る病気ではなく一生付き合っていく病気なので、飼い主様の生活環境も考慮した上で、ワンちゃんネコちゃんにとってもストレスにならない治療を提案しています。

ドクターからのメッセージ
  • 有井 良貴 院長

腎臓病は症状が出るのが遅いので、早期発見するために病院での定期検診をおすすめします。特にネコでは片方の腎臓が機能していなくても症状が現れません。腎臓病は進行性の病気ですが、コントロールできれば寿命に影響しない子がほとんどです。血液検査と超音波検査、尿検査を合わせることで早期の診断が可能です。当院では病院全体で腎臓病の治療に力を入れています。私だけではなく、勤務医の先生やスタッフにもなんでもご相談ください。

犬・猫の腎臓病。間違えやすい病気、症状と治療法
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住所
東京都世田谷区羽根木2丁目26−2 羽根木イースト 1F
電話番号
03-6379-3032
診察動物
イヌ ネコ ウサギ ハムスター フェレット モルモット
診察領域
歯と口腔系疾患 眼科系疾患 皮膚系疾患 脳・神経系疾患 循環器系疾患 呼吸器系疾患 消化器系疾患 肝・胆・すい臓系疾患 腎・泌尿器系疾患 内分泌代謝系疾患 血液・免疫系疾患 筋肉系疾患 整形外科系疾患 耳系疾患 生殖器系疾患 感染症系疾患 寄生虫 腫瘍・がん 中毒 心の病気 けが・その他 軟部外科