頼れる獣医が教える治療法 vol.011
外科診療を専門として勉強してきました。その中で得意とする分野は、犬と猫の腫瘍外科です。大学の時に外科の研修医をしていたので、多くの腫瘍を見て学会発表も行いました。飼い主さんは、腫瘍と聞くとがんを想像してドキッとするかもしれませんが、良性の腫瘍もあるのでがんとは限りません。治せますし、もし治すことが難しくても、生活の質をどのように上げてあげられるのかを一緒に考えます。腫瘍は消化管、肝臓、脾臓、副腎、肺、胸腔、生殖器、乳腺腫瘍など様々な種類があります。多くの腫瘍は見た目では分からないことが多く、その上動物たちは我慢をして症状を隠してしまうため、それをどのように早く見つけてあげるのかが大事だと考えています。また投薬によってがんの症状が隠れてしまうこともあります。その際は超音波診断などの画像診断を行うことが大切になってきます。
私自身ダックスフンドを飼っているのですが、その子も乳腺腫瘍が出来たことがあり、はじめて乳腺腫瘍の手術を行ったのはその子でした。MRIが必要な脳腫瘍以外の腫瘍は切除した経験があると思います。中でも、腎臓がんや膀胱がんを特に多く診て来ました。
名前の通り、腎臓にできる腫瘍で、症状が起きてから見つかることが多い病気です。目に見える症状としては、おしっこに血が混ざる血尿が出たり、いつもより尿量が増加したり、お腹が張ってきたりするということなどが挙げられます。検査としては、超音波検査やレントゲン検査、血液検査、尿検査などを行い、その上で、あやしい時は、CT検査を行います。
第一選択は外科的に取り除く、つまり手術を行うことになります。腎臓は太い血管の近くにあるのですが、その太い血管を巻き込んでしまっている「癒着」状態だと、難易度が高くなります。場合によっては、血管を遮断して取り除くこともあります。犬や猫には腎臓移植や再生医療はあまり行われていません。ただ、摘出できれば原因がなくなるということなので、それまでとほぼ変わらない生活に戻れることが多いです。全摘出の場合でも、腎臓は2つあるので、もう片方の腎臓が頑張ってくれて、日常生活を送ることができます。
膀胱にできる腫瘍で、半分以上を移行上皮がんが占めています。移行上皮がんは悪性腫瘍の一つで膀胱などの尿路によくできます。膀胱がんの症状としては、おしっこに変化があり血尿や排尿障害がよく出ます。おしっこの回数が増える、おしっこを出したいけどうまく出せないといった症状もあります。検査は腎臓がんと同様です。膀胱炎や結石と見分けるためにも、レントゲン検査や超音波検査、尿検査で細胞が含まれているかどうかなど、きちんと検査をして見極めます。
膀胱がんの治療法は2種類あり、腫瘍が出来た場所や進行度によって変わります。1つは、膀胱の根元の部分「膀胱三角」といって膀胱の尿道に近いところに腫瘍ができた場合は、摘出することが第一優先になります。もう1つは、膀胱の上部の先端にできた場合です。この場合は、部分切除、もしくは腫瘍の成長が遅い場合だと非ステロイド系の薬を使うことでコントロールできる場合もあります。膀胱がんの場合は治療後のケアも重要です。膀胱は尿をためてから出す仕組みですが、全摘出の場合、それがなくなってしまうので、どうしても飼い主さんによるおむつの介護が必要になります。介護によっておしっこが出る状態も変わってきます。また、おむつと便が混ざってしまうと細菌が尿道に入ってしまい「上行感染」という感染症の原因になってしまうこともあります。尿かぶれが起きることがあるので、こまめにおむつを変えることが大切です。
動物病院サンペットクリニック
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