影響しあう腎臓と心臓の不調。状態を見極めて適切な対処を
ペットにも起こる、腎不全と心腎関連症候群。細やかに状態を把握し、適切な治療を行う必要があります。
- ちょう動物病院 栃木県下野市
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- 長 哲 院長
頼れる獣医が教える治療法 vol.009
腹腔鏡は内視鏡の一つです。内視鏡は先端にカメラがついていて体内を撮影することができます。耳なじみのある器具では胃カメラも内視鏡の一つです。
内視鏡にはその用途や作りによりさまざまなカテゴリーに分かれ、鏡筒が曲がるかどうかで軟性内視鏡と硬性内視鏡に分類されます。腹腔鏡は鏡筒が硬い素材でできている硬性内視鏡の一つです。この硬性内視鏡で腹部を見るものが腹腔鏡、胸部を見るものは胸腔鏡となります。
お腹に1センチ以下の傷が3つだけで腹腔内の手術や検査をすることができ、痛みも少なく、身体への負担が少ないので回復も非常に早いことが特徴です。
麻酔をかけるところまでは一般的な開腹手術と変わりません。その後通常の開腹手術では手術に必要なだけ開腹をしますが、腹腔鏡を用いると小さい傷が3つだけになります。お腹の中にガスを入れますので腹腔内もクリアに見えます。その小さく開けた傷口から腹腔鏡カメラや鉗子や超音波メスなど手術に必要な器具をいれ手術を行います。
術後は傷口を縫いますので傷もとても目立たないものになります。避妊手術では当日退院が可能な子が多いです。
避妊手術の症例が一番多いですね。わんちゃんの避妊手術は100例以上行っています。
他には門脈体循環シャントという肝臓を迂回して全身循環に流れ込む血管奇形の治療に使用することも増えてきています。精巣が陰嚢内に下降せずに腹腔内や鼠径部に停留する潜在精巣の摘出や、副腎摘出、腎臓摘出、副腎摘出、すい臓摘出、肺切除、心膜切除、検査として肝臓や腎臓、腸、腫瘍などの生検でも使用します。腹腔内の検査や手術は腹腔鏡を用いてできるものも多いですが、すべてできるわけではありません。その子の病気、病態、身体の大きさなどによっては腹腔鏡手術を行えないこともあります。その子の状態を診て、開腹手術の方がメリットが大きい場合は、最初から開腹手術を選択することもあります。
低侵襲という医療の考え方はベースに持ち、その子にとって何が一番良い医療かということを考えて手術を行うので、低侵襲だけが一番良い医療だとは決して思っていません。
犬や猫以外の動物に低侵襲内視鏡を用いた医療を行う場合は、私の場合はフェレットだけです。腹腔鏡手術では換気が正常の状態の3倍必要になるため、気管チューブをしっかりと挿入できる子でのみ処置ができます。身体の構造上ウサギなどでは使用ができません。
傷口が小さく本人への負担が少なくすむことが一番のメリットです。麻酔の覚めも腹腔鏡を用いた低侵襲手術のほうが開腹手術より早いですし、本人の痛みや違和感の覚え方も異なります。腹腔鏡手術を行うと、個体差はありますが傷口を気にすることなく覚醒後早いうちから歩こうとする子もいるくらいです。
デメリットとしては、費用面や腹腔鏡手術を行える病院が少ないことですね。腹腔鏡手術を行うには器材を導入するだけでなく手術を行える人がいないといけません。腹腔鏡手術の症例は多くはないので経験を積む機会がどうしても少なくなってしまいます。腹腔鏡手術の場合4人ほどのチームを組んで手術を行うのですが、全員がお互いの動きを分かっていないとスムーズに処置を進めることができません。実際に腹腔鏡手術をしたい、と思っても費用面で躊躇することや身近に導入している病院がないこともあります。
腹腔鏡を使用した避妊手術のメリットは、小さな傷口を3か所開けることで卵巣、子宮の摘出が可能なので身体への負担が少ないことです。麻酔の醒めも早く術後の回復が早いため、手術当日に退院できます。臓器を空気に触れさせないことも回復が早い要因です。
美的観点からも、大きく開腹をして手術をするよりも、1㎝以下の小さな傷だけで済むので飼い主さんからも喜ばれています。何より、手術を受けたペット達の回復が早いことや腹腔鏡手術の方が臨床的にも良いデータが出ているので、腹腔鏡を使用した避妊手術のメリットは大きいと考えています。
手術自体の時間は30分から1時間程度です。腹腔鏡による手術の場合は術後2時間程度で回復し、当日退院が出来ます。開腹手術でも手術の時間は変わらないのですが、回復するのに時間がかかるため当日退院をすることはほとんどなく、1泊入院をしてもらっています。
本人の性格によっても変わりますが、麻酔が完全に抜けて元気に自分で歩いたりご飯を食べたりするようになるまでの時間が腹腔鏡手術を行った場合のほうがかからないです。
内視鏡を使用した手術では、子宮、卵巣以外のほかの臓器や血管の様子を観察できます。3つの傷口から腹腔内の様々な箇所を診ることができます。子宮や卵巣を切除したあと、出血がないことの確認はもちろん、他の臓器に異常がないかを観察することができます。
たとえば手術前の検査で肝臓の数値が高いことが判明している子でしたら、避妊手術と同時に同じ傷口から肝臓の一部を採取して検査することができます。腹腔鏡手術でなく開腹手術で行った場合では、子宮と肝臓は離れているため大きく開腹しないと肝臓が観察できません。膀胱結石の摘出を同時に行うこともあります。
小さな傷口3か所だけで、避妊手術と同時にほかの検査や手術ができることは大きいですね。
避妊手術の場合ですと開腹手術に比べ少し高額になります。しかし術後の回復が早く同時にほかの臓器のチェックも行えますので、興味のある方はご相談ください。
避妊手術ではなく胆嚢摘出や副腎摘出手術の場合は、通常の開腹手術と同程度の費用です。
お腹に傷をつけたくない方や、少しでも痛みのない手術を探されている方が遠いところから来院されることもあります。当院をかかりつけ医とされている飼い主さんも避妊手術のご説明の際に興味も持って内視鏡を選ばれる方も多いです。
ただしどのわんちゃん、猫ちゃんでも腹腔鏡手術ができるわけではないので、まずは手術ができる状態であるかを診てどのような処置が適切か相談をしています。
前例がないことが多く手探りではじめなければならないことですね。私が腹腔鏡を導入した当初は腹腔鏡の手技をまとめた書籍もありませんでした。大学の先生に教わりに行ったり、海外の文献を読んだりと、手技を確立させるまでは本当に大変でした。
腹腔鏡手術の場合、小さな傷口3つだけで手術ができるため慣れれば簡単なのではないかと思われるかもしれませんが、その3か所の穴をどこに作るかも大切です。血管に注意しなければ出血してしまいますし、関係のないところに傷口を作ってしまえばまたもう1つ傷口を作らなければなりません。
今でも手術を行う前はイメージトレーニングをしています。場合によっては絵をかきながらイメージをすることもあります。どこを切るか、腹腔内がどうなっていてどのように処置をするかを前日にしっかりとイメージしてから手術に臨んでいます。
また腹腔鏡の手術では手先の器用さも求められますので、院内にある腹腔鏡のトレーニングボックスで練習も行っています。
結石破砕術を取り入れています。人の方では胆石を除去する時などに用いられている処置ですが、動物医療で取り入れたのは当院が全国初になります。尿道からカテーテルを挿入し、そこから電気水圧による衝撃波を直接結石にあて破砕します。あとは破砕された石が体外に排出される仕組みです。
当院ではもともと結石に対し腹腔鏡を使用して摘出手術を行っていましたが、それよりも低侵襲でできる新しい医療です。
どうぶつ低侵襲内視鏡外科センターとして、身体への負担の少ない新しい技術を積極的に取り入れていこうと思っています。
昔、当時小学生のお子さんとお母さんが飼っていたハムスターの具合が悪くなった時に来院され、その時小学生だったお子さんがハムスターの治療をしている姿を見て「獣医になりたい」と憧れて、その数年後に麻布大学を受験して獣医になったことがあります。数年後、ご両親がお見えになって「重本先生に、どうしてもお礼が言いたい」と言われて呼び出されて、その時「子供が重本先生に憧れて獣医になりました」と聞き、とても嬉しかったことがあります。
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ペットにも起こる、腎不全と心腎関連症候群。細やかに状態を把握し、適切な治療を行う必要があります。
慢性腎障害は、早期発見で治療の選択肢が広がります。丁寧な検査と適切な診断で、ペットと健やかな毎日を。
歯周病は犬や猫にも多く、進行すると全身に影響します。早期発見と予防には、日頃の口腔ケアが大切です。