救える命のために手を尽くす、供血犬のいる動物病院
血液系疾患患者のための輸血外来を設置。腫瘍や慢性疾患等のセカンドオピニオンにも積極的に対応します。
- クレア動物病院 大阪府大阪市天王寺区
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- 田中 誠悟 院長
頼れる獣医が教える治療法 vol.001
街の動物病院でよく診る疾患は下痢・嘔吐や皮膚病などです。それは当院でも変わりませんが、確かに近年はそれに加えて、ちょっと足が痛そうとか、歩き方がおかしいので、と連れて来られる飼い主さんが増えています。飼い主さんが普段からペットの状態をよく見て下さっているからこそだと思います。
歩き方がおかしい原因は前肢・後肢ともにありますが、当院では特に膝蓋骨脱臼や前十字靭帯損傷が見つかるケースがしばしばですね。前十字靭帯は大腿骨と下腿骨をつなぐ太い靭帯のひとつですが、膝をねじってしまったり伸ばす方向に強い力がかかったりすることによって切れることがあります。この病気の要因のひとつが加齢です。つまり歳を取ってから起こることが多いので、当院に来ているペットの中にも高齢になり、ちょっとしたはずみで前十字靱帯を損傷してしまうケースも多くなりました。全国的な統計でも、関節症状を伴う変形性関節症の発生頻度は、10歳以上の犬で45%は見られているという報告もありますから、このような病気の絶対数も増加していると思います。
まず、症状として見られるのが足を着地しづらくなることが挙げられます。前十字断裂によってズレが生じるため、歩きにくくなります。ただ、前十字靱帯は切れた時点ではおそらく違和感を覚える程度なのだと思います。ところが前十字靱帯を断裂したことで、その部分が動作のたびに擦れを起こします。そうすると、膝関節の中に滑膜炎という炎症ができて、それが一気に痛みとして出てくるため、出来るだけその足に体重をかけないよう足を引きずるようになります。
これは後肢にある膝関節のお皿(膝蓋骨)が、本来収まっている溝から外れてしまう状態を言います。多くが先天的なもので、膝関節の周りの筋肉や骨、靭帯などの形成異常が原因です。こういった形態異常を持つ犬は、歩いていてちょっと振り向いた刺激などでポンと外れてしまうというのが特徴です。後天性のものとしては打撲や落下などによる外傷が原因です。初期は無症状の場合が多く自然と元の位置に戻ってしまうこともあります。ですが、酷くなると膝関節のお皿が外れたままになってしまいますので、手術で開いてみると溝が変形をおこし、炎症がひどくなっている場合もあります。
ひとつは先に述べたように加齢によるものです。そして、もうひとつが膝の問題を抱えている犬の多くが、ポメラニアンやチワワ、マルチーズ、トイプードルといった、今人気の犬種であるという点です。昔のようにゴールデンレトリーバーやシーズー、柴犬といった犬種が人気だった頃には、あまり骨折や膝関節の疾患は多くありませんでした。そういう意味では、トイ種と言われる四肢が細い犬種が人気で絶対数が多くなったということが言えます。加えてそういった犬種が高齢になったことで、必然的に膝関節疾患を抱える犬の数が増えた。背景には、そういった要因があるのではないかと思います。
まずは問診と触診です。歩行の状態やお座りの仕方を診ます。例えばお座りの時に片方の後ろ足だけが体の内側に入っていたり、歩行時に首でバランスをとったり、膝を伸ばしたままで歩いていたりといったところなどを確認します。前十字靱帯を損傷していると、歩行時に膝が不安定なため痛い方の足を挙げたり、膝の部分が腫れたりします。また、膝蓋骨脱臼のようにお皿が外れているかどうかは触ってみるのが一番です。つまり、レントゲンなどの画像を撮る前段階の問診や触診が一番重要になります。
たとえば、前十字靭帯を損傷してしまった場合、その治療法は大別して2通り「内科的治療法」と「外科的治療法」があります。5キロ以下の小型犬に関しては比較的症状も軽い場合が多く、滑膜炎という炎症を抑える薬を投与するだけで回復する場合もあります。また鎮痛剤を使う際も経過を見ながら投与量を減らしていき、薬を止めても歩行できる場合もあります。ただ、それ以上の体重の子の場合はどうしても内科的な治療で対応ができるケースが少ないため手術が必要になることが多いです。犬の場合、局部麻酔でできる手術は限られるため、多くの場合で全身麻酔が必要です。手術の時間が長くなればストレスがかかりますし、それなら麻酔でしっかり眠らせてあげて、かつ痛み止めをしっかり使ってあげれば、時間的にも本人のストレス的にも負担は少ないはずです。
手術方法としては、強靭な糸で靱帯を代替する関節外法、骨切りを行ってズレている分の関節の角度補正をする脛骨骨切り術などが一般的です。僕は、関節外法を主に行っていますが、今のところ症状が再発した子はいませんね。
元々、犬は後肢が30%で、前肢70%の負重の割合で動いているため、後肢に多少問題があっても、生活上大きな支障があるわけではありません。そして、5キロ以下の小型犬の場合は、それが顕著に表れます。ですから、大型犬と違い小型犬については前十字靱帯損傷に関しても、膝蓋骨脱臼についても、手術についてはその犬の症状次第で決めることの方が多いですね。膝の状態や進行度というより、本人が痛みを気にしているか気にしていないかの方が、重要かもしれません。
痛みが強いのであれば年齢がたとえ15歳を超えていても、手術を選択する場合があります。そのあたりは本当にケースバイケースです。ただ、手術が必要な関節疾患を放置しておくと、関節変形などが進行し手術がしづらくなることがあります。また、高齢になるにつれ、心臓病や腎臓病などを患うことも増えますので、麻酔のリスクをしっかり評価する必要があります。大型犬でも10歳くらいまでなら必要な手術であれば行います。
例えば、左右の足を上げておしっこができた犬が、右足だけ上げたがらなくなったなどが挙げられます。実は普段の些細なことの変化に気付いてあげることが一番重要で、足を引きずったり、痛がったりするというのは既にある程度症状が進行した後で、おそらく痛みが出ている場合が多いです。もちろん整形疾患だけでなく、他に原因があることも考えられますが、普段やっていた行動をしなくなる要因には痛みが考えられるということです。
体重の増加は確実にリスクになりますので太らせないことが予防に繋がります。前十字靭帯断裂の場合も、やはり肥満になっている犬とそうでない犬を比べると、リスクは4倍程度違うと言われています。また、膝蓋骨脱臼を持っている犬と持っていない犬とでは前十字靭帯断裂が起こる確率が10倍違います。しかも、体重の増加によって整形疾患を起こしてしまい手術をして回復しても、そのあと体重を減らせなかったことで再び同じ疾患を発症してしまう場合もあります。そういう意味では術後の体重管理も大切になってきます。
実は家の中というのは、結構あちらこちらに危険因子が転がっているものです。ですから、できるだけ生活環境に気を配ってあげることも大切です。たとえばフローリングの場合は床を滑らないようにマットを敷くとか、普段から階段を上らせないよう注意するなど、家の中で出来る工夫は積極的にした方がいいですね。とにかく足に負担がからないようにしてあげることが、一番重要だと思います。
結局は犬の体重を重くしてしまうのも、ダイエットさせるのも飼い主さん次第、ということです。そのためには、まず身の回りで変えられるところがあれば、積極的に変えていきましょう。とくに膝の脱臼に関しては生活環境を変えることで、進行のリスクが減る場合が多いので、いろいろ工夫してみるといいでしょう。
ただ、それほど症状が出ていないからと思ってそのままにしておくと、意外とその足をかばっていまい、対側の足に負担をかけてしまう場合もあります。内科的な疾患もそうですが、外科的な疾患も高齢になればなおのこと起こりやすくなるので、おかしいと思ったらまずは病院を訪ねてみることをお勧めします。
僕らは神様ではありません。ましてや犬語や猫語が話せるわけでもないので、動物たちの気持ちを120%理解することはできません。だからこそ、飼い主さんのお話がとても大事で、お話を聞きながら実際触った時の感触や検査を進めていくことで100%に近づけていくしかないのです。何か違うな、という本当に些細なことでいいので、それを伝えて頂けると、僕らも助かるしワンちゃんも助かります。
アジリティーが大好きだったジャックラッセル・テリアが膝を壊して手術をさせてもらったことがあります。手術は成功し、飼い主さんから「また遊びに行けるようになりました!」と聞いたとき、ああ、手術してよかったなと思いました。サッカー選手が一度膝に問題を抱えてしまうと第一線で復活するのは相当難しいように、膝にメスを入れるということはそれくらいリスクも大きいのです。もちろん術後に飼い主さんがしっかりサポートしてくれたからこそ、そこまで回復したのだと思いますが、そんなケースに関われたことは、すごく嬉しかったです。
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