鴨林 慶院長 彩の森動物病院 | ドクターズインタビュー

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頼れる獣医が教える治療法 vol.008

犬・猫の内科疾患
消化器系疾患
犬・猫の内科疾患
彩の森動物病院
  • 鴨林 慶院長
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人間同様、ペットにも診断・治療が複雑な疾患が増えているという。昔ながらの印象が残る七夕商店街の中にある「彩の森動物病院」は、モダンで明るい院内。ペットの診察のほか、トリミングやペットホテル、急患や重症動物の入院施設等もあり、毎日忙しい。近所の動物病院からも、「難しい病気なので」と紹介されてやって来るペットと飼い主から信頼が厚い鴨林慶先生。麻布大学附属病院での診療を通して難治性疾患の診察にも取り組んでいる。血液内科・消化器内科・がん腫瘍科・整形外科・眼科などに力をいれ、多彩な診療科目の治療を行う。今回は総合内科について鴨林先生にお話しを伺った。(取材日 2016年11月28日)

いつもより食欲がない、嘔吐や下痢を繰り返すなどの症状を見逃さないこと。

―消化器内科ではどのような病気を診ますか?

普段の診療においては、吐いたり下痢をしたりといった主訴で来院される方が多いです。症状として嘔吐、下痢があらわれていますが、その原因は多岐にわたります。単なる急性胃腸炎から、異物の閉塞や機能性イレウス、膵炎、腫瘍、免疫疾患、内分泌、血液疾患などさまざまな原因があります。また吐いたり下痢をしていても元気にみえる子もいれば、痩せていたり、腹水や貧血を伴っているケースもあります。

―どのような検査を行いますか?

ケースによりますが重症の場合には、正確な血液検査と画像診断は必須になります。血液検査と画像診断をすることで多数ある候補の病気から鑑別診断を狭めていき、なおかつ基礎疾患の存在を確認します。内科疾患では根底に基礎疾患があり、その上でいくつもの症状がでてくるケースがしばしばあるので、基礎疾患を確認することは非常に大切です。例えば、肝臓や腎臓の数値が悪いというだけで肝不全、腎不全と決めつけると大きく病気を見誤る可能性があります。消化器疾患では、検査結果から確定診断に進むために生検が必要になることが多いです。

―生検とはどのようなことをするのですか?

超音波診断を行いながら細い針で細胞を採取することや、内視鏡を用いて腸粘膜を採取することもあります。患部の組織の一部を切り取って病理診断を行うことを生検と言います。
ケースによっては、開腹して直接患部を切除する切除生検を選択することもあります。
血液検査と超音波検査などの画像診断で異常所見が見つかった場合、どのような生検が適切かを飼い主様と相談しながら判断をします。

―内視鏡はどのような場合に使われますか?

免疫介在性疾患を疑う炎症性腸症・リンパ型拡張症・消化管型リンパ腫などの腫瘍が疑われる場合です。口腔からだけでなく大腸側からアプローチすることもあります。
内視鏡の診断によってその後の治療方法・予後が大きく変わるため、必須の検査であると思います。
また内視鏡には生検を目的とした使用以外にも、異物の摘出を目的として使用する場合もあります。
若齢期に多い異物の誤飲で、オモチャや固いおやつなどが食道~十二指腸付近に詰まってしまった場合に内視鏡と異物摘出用の鉗子で対応可能な場合があります。特に食道内に詰まってしまった場合は内視鏡が有用です。

呼吸が早い、歯茎や舌の色が白い、皮膚の内出血といった症状は要注意。

―血液内科ではどのような病気を診ますか?

貧血からの元気・食欲低下を主訴に来院される方が多いですね。酸素を運ぶ赤血球が減少しているため、呼吸が早くなっている場合も多いです。貧血の原因は、出血、腫瘍、免疫介在性貧血や骨髄疾患、寄生虫感染、鉄欠乏や内分泌疾患など多岐に渡ります。
原因によって治療法は全く異なり、診断を誤れば治療自体が害になるため慎重な検査からの診断が必須となります。

―近年多く報告されている、犬の免疫介在性溶血性貧血とはどのような病気ですか?

免疫介在性溶血性貧血(以下IMHA)は自分の免疫により赤血球を壊してしまう疾患です。通常、免疫は体内にウイルスや細菌などの病原体や異物が入ってきた時に、それらを排除するために働く自己防御システムです。しかし、IMHAになると、免疫が体内にある赤血球を異物と誤認識してしまうために攻撃し貧血になってしまいます。
赤血球膜に対しての免疫が作用すると赤血球が破壊され溶血を引き起こします。赤血球は肺からの酸素を体内の隅々の細胞に運び供給する役割を担っていますが、溶血が起こると赤血球の数が減少するため、酸素運搬能力が低下し、全身が酸欠状態に陥ってしまいます。

―どのような症状で気づきますか?

IMHAの症状としては、元気・食欲の低下、呼吸が早く疲れやすい、眼や歯茎などが白色または黄色く見える、赤い尿が出る、皮膚の所々に内出血のような痕がある、などです。赤血球は、酸素を体の隅々に運ぶ役割があるため、その数が少ない状態である『貧血』になると、体内の酸素濃度の低下がおこり、それに伴い早い呼吸をするようになります。
また貧血になると眼や歯茎が白くなるので注意深く観察してみてください。溶けた赤血球によって、眼や歯茎が黄色く見える黄疸などの所見が見られることもあります。

―どのような検査や治療を行うのですか?

IMHAを診断する際に大事なことは、他の似た症状を引き起こす疾患を除外することと、総合的に判断することです。腫瘍や感染症、中毒でも溶血は起こりますのでそれらの除外を行います。他の疾患でないことの判断がついてから、再生性貧血であるか、球状赤血球は認められるのか、抗赤血球グロブリン抗体の有無などを確認します。注意している事としては、抗体検査が確実なものではないこと、血小板も同時に減少している場合や非再生性貧血の場合には、他の部位における自己免疫性疾患の存在を考慮することです。ケースによっては確定診断のために骨髄検査を行うこともあります。
IMHAの治療としては、輸血や、いくつかの免疫抑制剤とステロイド剤を用いることが多いです。コントロールが難しく、レスキューが必要な場合にはインタクト型人免疫グロブリン製剤を使用する事もあります。

―IMHA治療の予後はどうなりますか?

どのような経過をたどるかは発症年齢や治療を開始するタイミングにより異なります。投薬を徐々に減らし、お薬なしでも過ごせるようになる犬や猫もいますが、コントロールが上手くいっていても急死する場合もあるため、1年生存率は50%とも言われています。
IMHAでは、血液の凝固異常を併発することが多く、血管内に血の塊が詰まってしまうことで急死するケースもあります。
このような凝固不全は発症時期が予測できないこともあり、注意深く観察する必要があります。
発症した場合は血漿輸血等での対応が必要です。
免疫介在性溶血性貧血では、その治療効果、治療期間という側面から、早期発見と早期治療が最も重要になります。

原因不明のリンパ腫は、日頃のボディタッチが大切!早期治療が長生きのカギ。

―IMHAと症状が似ているリンパ腫とはどのような病気ですか?

リンパ腫は造血系悪性腫瘍であり、本来はリンパ節・脾臓・骨髄といったリンパ系組織から派生することの多い腫瘍です。リンパ系組織とは感染症や腫瘍の広がりから体を守る免疫作用を司る組織です。しかしリンパ腫は身体の殆どの組織から派生する可能性があります。さらに、どの犬種や猫種でも発症する可能性があります。
また発症部位により症状がでないこともあれば、元気消失、嘔吐、下痢などの症状がでることもあります。

―犬と猫での違いはあるのでしょうか?

犬のリンパ腫と猫のリンパ腫では、腫瘍が出来やすい箇所も注意するポイントも変わってきます。
犬では顎の下や首元、脇、股、膝の裏といった体表リンパ節が腫れ、触ると弾力のあるしこりができることが多いです。これは多中心型と呼ばれるタイプで犬のリンパ種の80%はこのタイプです。無痛性のしこりで、初期には無症状であることが多く気づきにくいため、日頃からよく触っておくと変化に気づきやすいです。そのほかにも、腸や胸の中、皮膚にリンパ腫が発生する場合もあります。
猫の場合は、猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)が関連して発生することが報告されています。ウイルスの関与により若齢でも発生するケースがあるため注意が必要です。また猫のリンパ腫では多中心型は犬と比較し少数であり、消化管型、縦隔型、神経や腎臓などの部位にできる節外型など様々で症状に合わせて検査をしていく必要があります。

―リンパ腫ではどのような治療を行うのですか?

基本的には抗がん剤による化学療法になります。
その際、腫瘍細胞の免疫染色によりどのようなタイプの腫瘍かを調べ使用する抗がん剤を決定します。
多くの場合ステロイド剤を併用しますので、治療前には確定診断が必須となります。
ステロイド剤は、多種多様な疾患に有効なので、診断前に入れてしまうと、病気が隠れてしまうこともあります。リンパ腫では病気に気づくタイミングと抗がん剤を投薬するタイミングがとても重要です。また患者さんの状態に合わせて抗がん剤の量やスケジュールを柔軟に変更していく必要があります。また、ケースによっては外科・放射線治療を優先させることもあります。
リンパ腫もまた、早期に治療を開始することが、その治療効果と治療期間において最も重要となります。治療によって腫瘍をコントロールし続けることで、快適な生活が送れるようにすることが大切です。

―IMHAやリンパ腫になった場合、日常生活での注意点は?

IMHAやリンパ腫になってしまっても、正確な診断と治療を行うことで健康なコと同じように生活をすることが可能です。腫瘍疾患や免疫疾患というと、外出や他のコと一緒に遊んだり、集まる場所に連れて行ったりしてはいけないのではないかと心配されますが、しっかりと経過観察をおこない、抗生剤などを併用しますので、お散歩に行くことも可能です。
また、状態が安定しているのであれば外出をしたり、ドッグランに行ったりもできますし、他の犬や猫と一緒に過ごしているコもいますよ。

―これまでに、印象に残るエピソードはありますか?

多くあるケースなのですが、腸にできたリンパ腫が大きくなり、食べた物や水が通らず、吐き続けている猫が急患でいらしたことがあります。超音波診断にて腫瘍と消化管閉塞を確認し、即摘出しました。
病理診断後に抗がん剤による治療をおこない、そのコは現在も元気に過ごして1年半の経過をたどっています。
普段通りの生活が長く続いているので『このコは本当に癌なのでしょうか?』と喜ばれたことがあります。
私たちは、患者さんを自分の飼っている犬や猫だったら、との見方で診療していますので、とても嬉しかったですね。
リンパ腫は特にですが、内科的にがん治療をする場合は、がんをコントロールし続けて天寿を全うしてもらうことが最終目標と私は考えています。
コントロールができない場合でもやはり、そのコに合わせたターミナルケアは非常に重要と考えています。

ドクターからのメッセージ
  • 鴨林 慶院長

近年の獣医療は発展し続けていますので、様々な病気の理解が高まり、検査・治療方法も大きく変化しています。人間と違い、動物は話すことができませんので、
・なぜ困っているのかを丁寧に探索することができるか
・証拠を掴んだうえで、的確な治療を行うことができるか
この2点を動物にストレスをかけずにできるかが重要と考えています。私を含め当院の獣医はそういった、『動物に対して誠実な獣医療』を行える力を身につけるため、日々努力しています。さらに、より高度な検査や治療が必要かつ有益となる場合には、すぐに大学病院等の二次診療施設を紹介する判断と、その治療効果を予測する力も必要となります。動物達に『誠実な獣医療』を提供するため、何歳になっても学ぶ姿勢を崩さないようにしたいと思っております。

犬・猫の内科疾患
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04-2937-7797
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