新習志野どうぶつ病院 愛宕 哲也 先生 | ドクターズインタビュー

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頼れる獣医が教える治療法 vol.086

犬と猫のがん治療の新しい選択肢「電気化学療法」
腫瘍・がん
犬と猫のがん治療の新しい選択肢「電気化学療法」
新習志野どうぶつ病院
  • 愛宕 哲也 先生
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外科手術、抗がん剤治療、放射線治療に続く、悪性腫瘍“第4の治療”として注目を集める「電気化学療法」。体表にできた悪性腫瘍に電気パルスを当て、細胞膜の透過性を一時的に高めることで、抗がん剤を腫瘍細胞内に効率よく取り込ませ、局所的に効果を増強させる治療法だ。手術による切除が難しい腫瘍でも有効性が報告されており、新たな治療の選択肢として期待される。「ご家族に寄り添ったトータルケア」を信念に掲げつつ、千葉県習志野市の「新習志野どうぶつ病院」と「奏の杜どうぶつ病院」で日本獣医がん学会獣医腫瘍科認定医II種として幅広い診療に携わる愛宕哲也先生(奏の杜どうぶつ病院院長)に、電気化学療法について伺った。(取材日 2025年9月19日)

薬剤の抗腫瘍効果を最大5000倍に増強、局所的な治療が可能に

― 「電気化学療法」とは、どのような治療法なのでしょうか。

ヨーロッパ発祥の治療法であり、悪性腫瘍に対する局所治療として位置付けられています。治療の流れとしては、まず抗がん剤を静脈内もしくは腫瘍内に投与した後、特殊な装置に搭載された専用の電極を腫瘍の形成部位に直接当て、電気パルスを流します。すると細胞膜の透過性が一時的に高まり、抗がん剤が腫瘍細胞の内部に取り込まれやすくなるのです。この原理を活用し、悪性腫瘍の縮小・寛解を目指すのが電気化学療法です。腫瘍内における薬剤の効果を最大5000倍まで高めることが確認されており、これまで手術以外に有効な治療法がみつかっていなかった腫瘍や、従来の抗がん剤治療では効果が乏しいとされていた腫瘍に対しても、少量の薬剤で十分な抗腫瘍効果を期待できることがわかっています(Clinical Aspects of Electroporation, Lee ST, Gehl J, Lee EW (eds.), 2011)

― 従来の治療法との違いについて教えてください。

いちばんの違いは、電気化学療法が局所治療だという点ですね。従来の化学療法(抗がん剤治療)は、主に血液腫瘍を代表とする全身性の腫瘍に対してや、手術後に他臓器への転移を抑制する目的でおこなわれています。腫瘍細胞に届く抗がん剤の量が多ければ多いほどその効果は高まりますが、正常細胞にもダメージを与えてしまうので、効果に比例して副作用が強く出てしまいます。そのため「抗がん剤治療で十分な効果が得られる腫瘍はかなり限られている」というのが、獣医療の常識だったのです。
この点、電気化学療法は、腫瘍が存在する部位の抗腫瘍効果を局所的に高める治療法なので、全身への副作用が非常に少ないのが特徴です。施術部位の発赤や浮腫などの炎症反応、まれに壊死がみられることもありますが、飲み薬や包帯による管理で対応できるレベルに留まるケースがほとんどです。施術時は全身麻酔が必要となりますが、一般的な外科手術に比べると麻酔深度は浅いですし、施術時間も短いので負担は少ないといえるでしょう。また、治療費が高額となることの多い放射線治療に比べて、コスト面に優れているという点も良いところです。

― どのような腫瘍で適応になるのでしょうか。

犬の場合は肥満細胞腫や扁平上皮癌、悪性黒色腫(メラノーマ)や軟部組織肉腫、棘細胞性エナメル上皮腫など、猫に関しては肥満細胞腫や皮膚扁平上皮癌で、腫瘍の縮小効果が得られたというデータが確認されています。このほかに、手術によって腫瘍を切除したあと、肉眼ではわからないレベルの腫瘍細胞が残存している可能性がある場合、再発防止のために実施することもあります。電気化学療法を施術可能な部位は今のところ体表からアクセスできる場所に限られていますが、こうした顕微鏡的病変に対する効果は、ほぼ全ての腫瘍で期待できるでしょう。

犬の口腔内メラノーマや猫の皮膚扁平上皮癌など、切除が困難な症例にも対応

― 電気化学療法の処置、治療頻度について教えてください。

午前中にワンちゃん・ネコちゃんをお預かりして治療を実施し、夕方にはご自宅にお戻りいただけます。治療頻度に関しては、新しい治療法だけに明確な基準が定まっておらず、個々の症例ごとに判断しています。目に見える腫瘍の縮小を期待する場合、2〜4週間の間隔で2〜4回ほど実施するケースが多いですね。

― 犬の口腔内メラノーマへの適応について聞かせてください。

口腔内メラノーマを手術で完全切除するには、顎骨の一部を除去するような大掛かりな手術が必要になることも少なくありません。また腫瘍が上顎に形成された場合には、完全切除そのものが難しいケースもあります。近年、4cm未満の口腔内メラノーマ67例に電気化学療法を実施した結果、21%で完全寛解、49%で部分寛解が得られたというデータが海外から報告されています(Tellado MN, Radiol Oncol, 2020)。これは、電気化学療法が口腔内メラノーマの治療において、新たな選択肢となり得ることを示しています。

― 猫の皮膚扁平上皮癌についてはいかがでしょうか。

皮膚扁平上皮癌も、形成される部位によっては、やはり手術による完全切除が困難な場合があります。特にまぶたに形成された場合、眼球を一緒に摘出しなければならないケースも少なくありませんが、電気化学療法をおこなえば、眼球を温存して腫瘍の完治を目指すことも可能です。実際、海外のデータでは、猫の皮膚扁平上皮癌に対して電気化学療法をおこなった際の総奏効率は80〜100%とされており、非常に有効な治療法であることが示されています(Spugnini EP, Vet J, 2009など)

ドクターからのメッセージ
  • 愛宕 哲也 先生

私は現在、主に奏の杜どうぶつ病院で診療をおこなっておりますが、定期的に新習志野どうぶつ病院にも出勤し、腫瘍性疾患を中心に治療に携わっております。
人間と同様に動物たちも長寿化が進み、高齢のワンちゃん、ネコちゃんに腫瘍性疾患が発生するケースも増えてきています。かかりつけ病院で「もう治療法がない」といわれ、絶望されているご家族も少なくないはずです。こうした場合にも、当院でお力になれる可能性は十分あります。電気化学療法に限らず、腫瘍に関することでお困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。

犬と猫のがん治療の新しい選択肢「電気化学療法」
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電話番号
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