救える命のために手を尽くす、供血犬のいる動物病院
血液系疾患患者のための輸血外来を設置。腫瘍や慢性疾患等のセカンドオピニオンにも積極的に対応します。
- クレア動物病院 大阪府大阪市天王寺区
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- 田中 誠悟 院長
頼れる獣医が教える治療法 vol.071
目次
肝臓が慢性的な炎症を起こしている状態で、犬も人間と同様、発症初期はこれといった目立つ症状がありません。しかし病状が進行し肝硬変になると、肝機能の低下に伴い元気や食欲が落ちるなどの症状が出現し、末期では腹水が認められます。肝硬変に進行した場合の余命は、長くても2か月程度です。主要な病因として、免疫異常や銅の蓄積との関連が指摘されています。
ドーベルマン、ラブラドール・レトリーバーなどでよく見られるため、大型犬種を中心とした特殊な疾患と誤解される傾向にありますが、国内で多く飼育されている小型犬での発症を認める機会も多いです。つまり、あらゆる犬種で慢性肝炎を想定する必要がある、と認識を改めるべきでしょう。
肝臓の形状や機能を調べるためのエコー検査やレントゲン撮影、血液検査を実施します。しかし、最終的に慢性肝炎と診断し、炎症を食い止める免疫抑制剤の使用や銅の排出を促すキレート剤投与を判断するには、肝臓の組織を採取し病理組織学的検査により、炎症の程度や銅の蓄積を含めた肝臓の状態を確認する必要があります。肝臓の組織を採取する検査が「肝生検」です。慢性肝炎の治療は長期になることが多く、診断の時以外にも治療効果の確認のため複数回の肝生検を実施しなければならないこともあります。
肝生検とは、肝臓から細胞を採取して観察する検査で、肝臓の状態を把握したり病気を特定したりするためには不可欠な病理診断です。肝生検の実施には、肝臓の一部を採取する必要があります。過去には開腹手術で実施するのが一般的でしたが、現在では侵襲性が低く診断に必要十分な肝臓組織が採取できる腹腔鏡を使用した肝生検が推奨されています。
腹腔鏡による肝生検は、30分程度で実施できます。まず全身麻酔をかけた状態で腹部を2か所、5mmと5mmもしくは3.5mm切開し、それぞれトロッカーという筒状の器具を設置します。片方のトロッカーにカメラを挿入し腹腔内部の様子を観察しながら、もう片方のトロッカーには肝臓組織を採取する専用の生検鉗子を挿入し、肝臓の一部を切り取って抜き出します。採取部に止血剤を入れて、トロッカーを撤去、刺入部を縫合して検査完了です。施術中はビデオ録画を行いますので、飼い主様にも動画を見ていただきながら、実際の肝生検の様子や肝臓の状態を説明しています。
肝生検は慢性肝炎の確定診断と進行程度の確認に不可欠ですが、従来は開腹が必要であったため動物の身体的な負担が大きい検査でした。飼い主様も「検査のためだけにお腹を大きく開くなんて納得できない」と、心理的な抵抗を感じられたことでしょう。そのため開腹しての肝生検は実施することが困難でしたが、肝臓疾患の的確な診断・治療をするために、なんとかして肝生検を実施したいという強い思いがありました。そこで人間の医療ではもはや当たり前となった腹腔鏡を導入して、2か所の小さな切開だけで実施できる、動物の身体への侵襲が少ない肝生検を実現しました。
銅関連性慢性肝炎のトイプードルのケースです。かかりつけ動物病院を受診していましたが、肝臓の数値が改善せず食欲不振や体重減少も見られるようになりました。紹介された二次診療施設で肝生検を勧められ、飼い主様自身が腹腔鏡での低侵襲な肝生検を実施できる病院を探し、当院の受診に至りました。腹腔鏡で肝生検を実施したところ、銅関連性慢性肝炎と診断がついたため、すぐに免疫抑制剤・銅のキレート剤・銅制限食を使った治療を開始しました。肝臓の状態は肝硬変に近い状態でしたが、治療後すぐに体調は快方に向かいました。しかし肝臓の値に改善が見られず、2回目の肝生検を実施。銅蓄積は改善していましたが、炎症が改善していないことが分かったため、服用していた免疫抑制剤を変更し、肝臓の値も良くなりました。
その後、子宮の病気のため腹腔鏡での卵巣子宮摘出手術を実施したのですが、同時に3回目の肝生検を実施したところ、肝臓への銅沈着・炎症所見はほぼ確認されなかったため、免疫抑制剤を減量し経過を見ています。必要に応じて複数回の肝生検を実施することで、肝臓の銅蓄積や炎症所見の改善を確認しながら適切な治療を行うことができました。当初は肝硬変に近い状態でしたが、治療開始から1000日を超えた現在も元気に生活しています。肝生検の重要性を改めて認識させられるケースでした。
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血液系疾患患者のための輸血外来を設置。腫瘍や慢性疾患等のセカンドオピニオンにも積極的に対応します。
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