頼れる獣医が教える治療法 vol.003
背骨の骨と骨の間にある、クッションの役割を果たしている部位を椎間板といいます。その椎間板が激しい運動や肥満等により飛び出してしまい、神経や脊髄を圧迫することで、麻痺等の症状が起こる病気です。この病気の80%以上はダックスフントが占めると言われています。ダックスは遺伝的に椎間板がもろい上、胴長短足という体の構造から背中で支える体重が大きくなってしまうため、ダックスの85%が背中の中央部分の背骨にヘルニアの症状がでます。
コーギーも胴長短足ですからなりやすいですが、どの犬種でもなる可能性があります。例えば活動的な犬種であるビーグルも急な動きで腰を痛めることが多いです。最近では飼育頭数も多く、ジャンプすることが好きなトイプードルでの発症も増えています。また、ペキニーズやシーズーなど鼻がぺちゃんこの犬(短頭種)は首に発症しやすいです。
ふだんは活発なのに、突然動かなくなったりガタガタ震えだしたり、しっぽが下がってよろよろと歩きだしたりしたら危ないです。後ろ足を引きずって歩いていると、もう重症です。いずれも突然そうなりますから、非常に怖いのです。最悪の場合、後ろ足の麻痺から体全体の麻痺になり、心臓が止まってしまいます。人間のぎっくり腰のように笑って済ませられるものではなく、恐ろしい病気です。早いと24時間以内に亡くなってしまうこともあるので、様子がおかしいと思ったらすぐに病院で検査をする必要があります。
獣医学的には、椎間板ヘルニアは重症度によって5段階のグレードに分かれます。そのグレードに応じて治療方法が変わってきます。グレード1、2では痛くても歩いていますが、この場合は「動かさない」というのが治療になります。痛みを緩和する鎮痛剤を注射か飲み薬で使うこともあります。
グレード3からは足が麻痺しているので、手術になります。足をつねってみて痛みを感じていれば、麻痺が完全ではないので、まだ直るチャンスがあるためCTやMRIを撮って、手術ができるか判断します。手術では、背中を開けて背骨を削ります。骨の中の神経を露出させ、椎間板の飛び出しているところを取るというかなりダイナミックな手術です。再発リスクは1割もない位ですが、骨が弱くなるので、注意が必要です。
手術後、正常に歩けるようになるまで数日から数か月程です。2週間の安静期間の後、徐々にリハビリを始めていきます。歩かせる練習や水中で動かしたりとか、鍼を打ったり電気を流したりして、物理的に筋肉を動かしてあげます。
グレード4までは90%以上が手術で治りますが、グレード5になると治る確率は50%程度になってしまいます。再生医療なども行われていますが、この現状は打破できていません。そうなると、後ろ足に補助器具(車いす)をつけることになります。
神経の近くの手術ですから、通常の開腹手術よりも難易度とリスクは高いですね。患部が3、4カ所に多発していたり、背骨の右と左に分かれていたりすると難しさが増しますので、早いものなら20~30分で終わるところが、3~4時間もかかることがあります。しかも、脊髄軟化症という病気がヘルニアと併発している場合、発症3日以内に手術をしてもしなくても、死んでしまいます。しかも、脊髄軟化症は生前には分からず、死んでから検査して分かることです。ですから、手術前に飼い主さんに必ずお伝えすることは、100%治る手術ではないということと、5%の子は脊髄軟化症を併発している可能性がるため死んでしまうこともある病気だということです。
獣医になって今年で10年目ですが、500頭位はやってきました。一般病院よりもかなり多い数をこなしており、外科手術の専門医として他院から依頼されることが多いです。手法はオーソドックスですが、犬の体をあまり大きくは開けないようにしています。「肉体的負担は小さく、効果は大きく」という最小侵襲治療を常に心がけています。傷は小さく、患部はすべて取り除く。数をこなさないと身につかない技術ですから、私も経験の中でできるようになったと思っています。
跳んだりはねたりすることは犬の本能ですが、ペットとして飼うのであれば、しつけないをしないといけません。具体的には、「伏せ」「待て」「お座り」を覚えさせることです。跳んだ時やソファーに飛び乗った時には、すぐに「伏せ」や「お座り」をさせてご褒美をあげる。そうすると犬は、跳ばなかったらご褒美をもらえると覚えます。また、ソファーに跳び乗った時にはきつく叱ったり、物を投げて驚かせたりすることも有効です。しつけをする時に大切なことは、家族みんなで協力して行うということです。お母さんが厳しくお父さんは甘えさせるなど、家族がちぐはぐな行動をしないことです。甘やかしてしまうことは犬のためになりません。
この他、筋肉をしっかりつけるために散歩したり走らせたりなどの運動を怠ってはいけません。また、太らせないための食事管理も重要です。ご飯は目分量ではなく、必ず計量カップで測ってください。1回で1g変わっただけで、年間のカロリー数は大きく変わってきます。
まず2週間は安静にさせることです。滑らないようにフローリングに赤ちゃん用のマットなどを敷いてください。また、家に帰っても足が動きませんから、排尿の手伝いが必要です。ウンチは自分で出せますが、おしっこは手伝わないと出せません。膀胱を押してあげないとおしっこは出ないので、入院中に飼い主さんにやり方を覚えてもらいます。それを怠ると膀胱炎になります。オスの場合、おしっこが出ない苛立ちからペニスを噛み切ってしまうこともあります。そうなると、短く切るか取り去ってしまう手術をしなくてはいけなくなります。
最低30万円はかかります。手術の難易度によっては60万円位にはなります。
その後のリハビリや通院に1回1万円程追加でかかります。
佐野動物病院
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