頼れる獣医が教える治療法 vol.067
胆泥症とは、本来サラサラしている胆汁がドロドロになっている状態のことです。胆汁は肝臓で作られ、胆嚢という袋状の臓器に溜められています。食べたものが十二指腸に到達すると、胆汁は脂肪分の消化を助けるために胆管を通じて十二指腸に流れ出します。ところが胆泥症の犬の場合は、胆汁が泥状なのでスムーズに流れず、胆嚢や胆管に留まりがちになります。はっきりした原因はわかっていませんが、腸からの細菌感染や加齢、ホルモン異常によって胆嚢の運動機能が低下することが影響しているのではと考えられています。
胆泥症は、加齢によって発生しやすいことと、ミニチュアシュナウザーやシェットランドシープドック、アメリカンコッカースパニエルなどの犬種に多いことがわかっています。特に4歳以上のワンちゃんでは約6割に認められると言われているため、ワンちゃんの飼い主様はもちろん、これから飼おうとお考えの方にも知っていただきたいです。
胆泥症は、胆嚢粘液がゼリー状となり胆管閉塞を引き起こす「胆嚢粘液嚢腫」に進展する可能性があり、注意が必要です。胆嚢粘液嚢腫へ進展したまま放置してしまうと胆汁が溜まり続けて、やがて胆嚢に亀裂が入り、お腹の中に胆嚢内容物が漏れ出てしまいます。そこから腹膜炎、全身性の炎症へ発展しながら激しい腹痛を起こし最悪そのままワンちゃんが亡くなってしまうケースもあります。
また別の疾患に伴い、胆泥症を発症していることもあります。高脂血症や甲状腺機能疾患による影響、膵臓を始めとする胆嚢の周辺にある臓器が炎症を起こし胆道が狭くなっていることも原因になるので、胆泥症を「よくあるもの」として済ませるのではなく、発見後は定期的な観察が望ましいのです。
しかし胆泥症自体には分かりやすい症状がないため、ワンちゃんの様子を見ているだけでは気づくことができません。エコー検査を実施したときに偶然見つかることも多いため、特に4歳以上のワンちゃんを飼われている方は、定期健診を習慣化することをお勧めいたします。
エコー検査を実施して胆泥症の所見が認められる場合、胆泥の溜まり具合や併発している疾患がないかなどを詳しく調べます。胆嚢炎、慢性膵炎、腸炎、高脂血症、甲状腺機能低下症、副腎皮質亢進症などを想定しながら検査し、見つかればそれぞれ治療を進めます。
単純に胆汁がドロドロしているだけで、他に異常が見つからないケースもあります。その場合は、胆汁の可動性(ドロドロ具合)を見て、治療に進むかそれとも様子を見るか判断します。胆泥症と診断しても、胆汁が比較的サラサラしている場合には、経過観察とエコーによる定期的な検査を飼い主様にご提案しています。
内服薬による治療を行います。ここで注意していただきたいのは、胆泥症治療のイメージは、医療で完治を目指すのではなく、胆汁の流れが良くなるよう生涯に渡って内服薬などで「サポート」することです。
胆泥症は、加齢によって発症しやすくなるという特徴があります。また、胆嚢粘液嚢腫に進展し胆嚢内部の詰まりがひどくなれば、破裂する前に手術で胆嚢自体を取り除くことも珍しくありません。そのため、発見当初は様子を見ていても、定期的に観察し胆泥の溜まり具合から判断して投薬治療へ切り替えたり、胆嚢粘液嚢腫に進展した場合は手術をご提案したりすることも、飼い主様に必ずご説明しています。
もちろんです。当センターでは、胆泥症および胆嚢粘液嚢腫の検査と診断、内科治療、外科手術まで対応可能ですので、胆泥症のワンちゃんと飼い主様に対して、それぞれに合った治療を提案し実施しております。私は大学病院で外科専門医による指導の下で4年間勤務し、その後は夜間救急専門の動物病院に勤務していましたので、胆嚢破裂など緊急性の高い手術も多数経験しています。JAHA(日本動物病院協会)総合臨床医でもありますので、胆泥症の治療はお任せください。それに限らず、ワンちゃんとネコちゃんの健康で気がかりなことがあれば何でも当センターへご相談ください。
祐天寺どうぶつ医療センター
放置すると胆嚢が破裂しかねない「胆泥症」と「胆嚢粘液嚢腫」。定期的なエコー検査とサポートを行います。
負担の少ない細胞診でしこりの原因や腫瘍の良性・悪性を判別。病理専門医が迅速に確定診断を行います。
僧帽弁閉鎖不全症は放置すれば命に関わることも。病状や飼い主様の意向に合わせた治療を提案します。