頼れる獣医が教える治療法 vol.048
動物病院で麻酔を使用する機会は、オーナー様が想像されるより多いかもしれません。歯石取りやしこりの一部を採取する生検、胸を開けるような重い手術などいろいろな場面で麻酔をかけます。
麻酔の目的は、意識をなくして痛みを感じさせなくすることです。意識下で手術を行うと、痛みでショック死してしまう恐れがあるので、そうならないために麻酔が必要です。麻酔と鎮痛剤を適切に使えば、ご飯もすぐに食べられ、ストレスも痛みも少なく、傷の治りも早まり早期退院ができるなど、良いこと尽くめの手術となります。
たとえば最初に鎮静剤を注射し、ぼーっとしている間に麻酔導入剤、いわゆる意識を落とす薬を注射します。その後、気管チューブを挿入するか口元にマスクを装着し、吸入麻酔薬で麻酔状態を術中維持することが多いです。痛みの管理において、「先取り鎮痛」と「マルチモーダル鎮痛」という考えが重要です。先取り鎮痛は、疼痛の生じる処置を行う前から鎮痛剤を投与して鎮痛する方法。マルチモーダル鎮痛は、複数の薬を組み合わせることでそれぞれの投与量を少なくし、副作用を減らしつつも鎮痛効果を得る方法です。これらの方法を考えながら術中・術後の疼痛管理を行っています。
多数の薬がありますが、どの薬をどの程度使用するかは手術手技や動物自身の性格・持病を考慮して調整しています。
臆病な子や楽観的な子など、ワンちゃんネコちゃんも性格があり、痛がり方やパニックのなりやすさは異なります。神経質な子は、手で触っただけでもパニックになってしまいます。そのような子では、はじめから鎮静剤や鎮痛剤を多めに使って不安を軽減させます。
また、麻酔の覚まさせ方も状況に応じて変えています。たとえば呼吸器のトラブルが多い短頭種では、覚醒時に呼吸器のトラブルが起きないような覚醒の方法が必要になります。また覚醒後も呼吸器のトラブルが起きないか注意深く見る必要があります。
獣医師が麻酔医として麻酔の管理を行っています。麻酔管理を行う人は病院によって異なり、執刀医が自分で行う、執刀医の指示のもと看護師が行う、執刀医とは別の獣医師が行うなどのケースがあります。麻酔医がいなくてもできる処置もありますが、執刀医が手術をしながら麻酔の管理もすることは大変で、手術に集中できなくなります。当院では、私やアメリカ獣医麻酔疼痛管理専門医の先生が麻酔医として手術に入ることで、麻酔管理や手技が難しい症例にもできる限り対応しています。
また、専門医の先生が定期的に来ることで、院内全体でのスキルアップにもつながっています。全世界でも350名、日本国内では数名しか取得者がいない最高峰の知識と技術をもつ先生です。私自身、日々経験を積ませていただいています。
手術中は、血圧や体温、心電図、血中の酸素飽和度などの生体モニターのチェック、モニターには現れない変化を見落とさないように患者さんを見て触るなど、全体を確認しています。また、完全に眠らせたと思っても、痛みが加わると麻酔の深度は変わり、強い痛みであれば起きてしまいます。処置の内容に合わせて鎮痛剤や麻酔を追加し、麻酔深度の調整を行っています。
手術前後も麻酔や痛みの管理をします。たとえば、手術後に痛みやパニックで鳴いてしまうと、お腹に力が入り傷口への負担が増えるので、鎮痛剤や鎮静剤を投与します。普段のその子のことを知っている担当医の先生との連携も重要ですね。
高齢の子は、元気な若齢の子と比較するとたしかに麻酔のリスクはありますが、そのリスクを負ってでも麻酔をかける必要があれば麻酔はかけます。ただしその際には、本当にその処置が必要であるのかどうかをオーナー様とよく相談をしてから実施します。
麻酔は100%安全とは言えません。ほとんどの医療行為は、生命活動を活発化・改善させますが、麻酔は抑える行為が多いです。そのため腎臓や肝臓、心臓、肺などの機能がしっかりしていないと麻酔中や麻酔後に亡くなってしまう可能性が高くなります。だからこそ、当院では入念な手術前検査を行い、手術中も複数の獣医師が管理することでリスクを抑えた手術になるように精進しています。
さいとう動物病院 富岡総合医療センター
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