頼れる獣医が教える治療法 vol.047
膝蓋骨脱臼や前十字靭帯断裂が多いですね。飼い主様から「歩き方がおかしい」と相談されるケースが多々あります。足を引きずるなどの症状を跛行(はこう)と呼びますが、病気により跛行の仕方は異なります。膝蓋骨脱臼であればケンケンやスキップ、前十字靭帯断裂であれば体重をかけずに歩くなどです。歩き方を確認して、整形学的検査やレントゲン撮影を行うことで病気を特定します。骨や関節の異常ではなく、神経の病気が見つかることもありますね。
膝関節の病気は、自然に治ることはありません。悪化すると、軟骨がすり減って神経線維がむき出しになった、変形性関節症という常に痛みのある状態になってしまいます。人間では人工関節に置き換える手術が可能ですが、動物では現状、現実的に有効な治療の手段がありません。そうなる前に治療を行うことが重要です。
外科的治療と手術をしない保存療法の2つに分けられます。保存療法は、体重を抑えて運動制限をし、薬やサプリメントで痛みを管理する方法です。膝関節症の治療目的は、「運動機能の回復」と「将来的な変形性関節症の予防」ですが、変形性関節症の予防効果がより期待できるのは外科的治療です。
治療内容は飼い主様と相談して決めています。医学的に手術をしたほうが良くても、手術ができないことや手術を選択しないケースもあります。当院では、一般的な保存療法だけではなく、鍼灸などの東洋医療や理学療法を取り入れ、さまざまな治療を選択できる体制を整えています。
膝蓋骨脱臼は、膝のお皿(膝蓋骨)が正常の位置(滑車溝)から外れてしまう病気です。外れてもすぐに元通りになる子、たまにスキップのような動きをする子、痛みがあり動きたがらなくなる子など、症状はさまざまです。1歳未満で症状がでたり、健康診断で発見されたりすることも多いですね。膝蓋骨脱臼は前十字靭帯断裂のリスクを上げるため、両方を併発している犬もいます。膝蓋骨脱臼は、症状の観察と、治療の開始時期を見極めることが重要です。
当院では、グレード(度合い)だけで治療内容を決めるのではなく、症状について細かくお話を伺いながら手術が必要かどうか判断しています。骨に対する手術と筋肉などの軟部組織に対する手術を組み合わせて実施します。
前十字靭帯という大腿骨と脛骨をつなぐ靭帯が部分的に切れていき、最終的には完全に切れてしまう病気です。靭帯が切れ、膝関節がぐらつくことで、痛みや跛行が現れます。線維の束である靭帯が切れる原因は分かっていません。部分断裂の状態で症状に気づくことは難しいですが、一時的なびっこや動きのこわばりといった初期症状のうちに治療を開始することが理想です。早期に治療を開始することで、残っている靭帯の温存や変形性関節症の進行を防ぐことができる可能性があります。
片側で前十字靭帯断裂が起きた子は、もう片側でも発症する可能性が高いこともわかっています。治療内容を決定する際には、将来的な予測と今の状況を踏まえてどこまでの治療を行うか相談させていただきます。年齢的に手術を選択しないこともあれば、もう片足も将来的に罹患する可能性を考えて早めに手術を行うこともあります。
手術の方法は複数ありますが、当院では主に2つの手術を実施しています。代わりとなる人工靭帯を設置する関節外法と、TPLOなどの骨矯正手術です。骨矯正手術は靭帯がなくなってしまった状態でも膝を安定させて歩くことができるようにする手術で、運動機能の回復と変形性関節症の予防が期待できる比較的新しい手術です。以前は、大型犬は手術、小型犬は保存療法で良いと認識されていましたが、近年では小型犬でも手術が推奨され、実際に手術をすることで良い結果が出ています。手術後は3か月程度で運動制限が必要ない程度に回復します。
飼い主様が病気を理解して、納得してもらうことが重要だと考えます。現在の状況と病気の説明、将来的な予測、治療の選択肢と、それぞれのメリット・デメリットをしっかりとお伝えすることを心がけています。どんな選択でも飼い主様の希望を尊重し、当院でできる最高の治療を提案できるよう努力しています。
さいとう動物病院 富岡総合医療センター
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