奥沢すばる動物病院 宮 直人院長 | ドクターズインタビュー

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頼れる獣医が教える治療法 vol.34

高齢犬の止まらない咳~慢性気管支炎の治療~
循環器系疾患
高齢犬の止まらない咳~慢性気管支炎の治療~
奥沢すばる動物病院
  • 宮 直人院長
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世田谷区東急目黒線奥沢駅から徒歩2分にある「奥沢すばる動物病院」は2017年に開院した新しい病院だ。木を基調とした明るい院内は奥沢のオシャレな街並みに溶け込んでいる。宮直人院長は呼吸器科、腫瘍科、救急医療を専門とし、「咳が止まらない」ことを相談しに来院する飼い主も多い。咳が出る病気は多岐にわたるため、病変部を特定し、併発している病気を見逃さないことが重要となる。中高齢の小型犬では、心臓病と慢性気管支炎を併発しているケースも多くみられるという。「慢性気管支炎はずっと付き合っていく病気だから、飼い主さんと一緒に治療を続けることが大事」と話す宮院長に、咳が出る病気や慢性気管支炎の治療について伺った。(取材日 2020年1月14日)

いつどんな咳が出るかがヒントになる。咳の治療は病変部の特定が重要

―咳が止まらない場合、どのような病気が考えられますか?

咳が出る病気はさまざまあり、併発しているケースも多々あります。動物種や年齢によってなりやすい病気は異なり、たとえば猫であれば猫喘息、若齢の犬であればケンネルコフの可能性が高くなります。中高齢の大型犬では喉頭麻痺、小型犬では心臓病や気管虚脱、慢性気管支炎が疑われます。
咳をしていても、喉にだけ問題があるわけではありません。喉、気管支、肺、心臓など、どこに異常があるかを特定することが大切です。

―診察の進め方について教えてください。

飼い主さんからお話を聞くことがもっとも病気の診断に役立ちます。「どのような咳が出るか」「いつ出るか」「どの場所で出るか」など、咳の仕方やタイミングも大きなヒントになります。たとえば、大きな音や強い音の咳は喉のほう、軽めの咳は気管の下のほうに異常があると類推できます。また冬の朝にだけ咳をする子の場合は、気管支が弱っていて、朝の冷たい空気が刺激となって咳が出ていると考えられます。診察室では咳をしない子が多いので、私が咳の真似をしてどれに近いか教えてもらうことも多いですね。自宅で咳をしたときの動画を撮っておいていただけると診断の助けになります。
飼い主さんの話をもとに病気を推測し、検査は確認として行います。病気の見逃しがないように、いろいろなパターンを想定して聴診やレントゲン・超音波検査を行います。腫瘍が見つかるケースもあります。咳は慢性疾患の症状であることが多いですが、命にかかわる咳もあるので、最初のトリアージ(重症度を見極め治療を行うこと)が重要です。

―緊急性の高い咳はどのようなものでしょうか?

「急に息苦しそうになって咳こむ」「咳が止まらない」場合は、肺炎や肺水腫など命にかかわる病気である可能性が高くなります。肺炎や肺水腫では、処置が数時間遅れると死亡するケースも出てきますので、速やかに診断し治療を開始しなければなりません。
救急医療の技術は、夜間救急病院で習得しました。当時勤めていた救急病院で数年前に確立した肺のエコー検査という新しい検査方法によって、肺炎や肺水腫の診断が格段に速くなりました。救急医療は分や秒の単位でその子の今後が変わってきますので、日々新しい知識を習得し、的確な処置をすることを心がけています。

心臓病の治療で咳が止まらない場合は要注意。慢性気管支炎の疑いも

―中高齢の小型犬が咳をしている場合、どのような病気が多いのでしょうか?

心臓病が原因で咳が出ている場合が多くみられます。心臓病で咳が出る場合の発生機序は、「心臓が拡大したことにより気管を圧迫している」または「初期の肺水腫で肺胞の中に水が染み出している」のどちらかです。圧迫による咳ではタイミングも特徴的で、寝ているときなどの安静時に“から咳”がでます。
心臓病の治療だけで咳が治まらない場合は、ほかの病気が併発していると考えられます。小型犬では、慢性気管支炎を併発しているケースが多いですね。特にチワワやヨーキーなどのトイ犬種では、心臓病と慢性気管支炎、気管虚脱が合わさっているケースがみられます。

―慢性気管支炎について教えてください。

慢性気管支炎は、アレルギーや感染症により炎症が起こり、気管支が弱くなってしまう病気です。気管支はもとに戻すことができず完治が難しいため、咳の出る頻度をコントロールすることが治療の目的となります。冬にだけ咳が出るような軽度の気管支炎であれば、部屋の湿度や温度を管理するだけで咳を減らすことができますし、消臭剤や芳香剤がアレルギー源となっていれば部屋の環境を整えるだけで症状は軽減します。日常の中に治療のヒントがあるのです。

―治療はどのように行うのでしょうか?

同じ症状であっても決まった治療はなく、その子に合わせた治療方法を見つけます。心臓病を併発していることも多いので、心臓病の治療にプラスして慢性気管支炎の治療を行います。
ネブライザーという薬剤を気化する機械を使った治療が一般的ですが、ネブライザーひとつとっても使い方は異なります。上手に鼻から吸ってくれる子もいれば、興奮してしまい逆に咳こんでしまう子もいるのです。また薬を届かせたい病変部によっても、薬剤の種類や粒子の大きさ、機械自体を変更する必要があります。病気を診断するだけでなく、その子の性格や生活スタイルに合わせ、その子に適した治療方法を飼い主さんと一緒に作り上げます。
健康診断などで症状が出る前の初期の病気が見つかった場合には、病気が進行しないように注意するポイントをお伝えしています。病気の悪化を防ぎ、咳が出ないようにコントロールすることが重要です。

ドクターからのメッセージ
  • 宮 直人院長

咳の治療では病変部を特定することが大切です。喉、気管支、肺、心臓など、どこが悪いかを判別することで、苦しさを取り除いてあげられます。画像検査の結果はイラストを併用して、病気や治療のご説明をしています。 咳が続くことにお困りでしたらお気軽にご相談ください。救急医療の経験から、緊急性の高い場合でも症状を安定化させるすべを心得ています。また、症状によっては高度医療病院とも連携をとりながら、最善の治療を心がけています。「まずは奥沢すばるに行けばなんとかなる」と思っていただけるように努力を続けてまいります。

高齢犬の止まらない咳~慢性気管支炎の治療~
高齢犬の止まらない咳~慢性気管支炎の治療~

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住所
東京都世田谷区奥沢3丁目45−1 欅ビル 1F
電話番号
03-6425-8049
診察動物
イヌ ネコ
診察領域
循環器系疾患 呼吸器系疾患 消化器系疾患 肝・胆・すい臓系疾患 腎・泌尿器系疾患 生殖器系疾患 腫瘍・がん けが・その他 軟部外科