頼れる獣医が教える治療法 vol.033
肛門周囲(会陰部)の筋肉が萎縮して隙間ができ、その隙間に直腸や膀胱、前立腺などの臓器が飛び出してしまう病気です。中高齢の未去勢のオス犬に多く、ポメラニアンやダックス、コーギーなどの小型犬で好発します。
飛び出す部位により症状はさまざまです。膀胱が飛び出すケースは排尿障害から腎不全を引き起こして命に関わることもあり、早めの処置が必要です。大腸や前立腺が飛び出すと、それぞれ大腸炎や前立腺炎を引き起こして全身性の発熱につながるので、こちらも早期の治療が望ましいですね。直腸が飛び出すと便秘や下痢が起こり、進行するとお尻が膨らみ、しっぽや肛門の向きも変わってきます。緊急性は高くないですが、その子自身は便秘や下痢で苦しみますし、自然には治らないので、治療をおすすめします。
内科治療と外科手術があります。まず、どの部分が飛び出しているのか、機能が低下している臓器がないかを確認するために、触診や直腸検査、場合によりエコー検査を行います。
内科治療では、便の掻き出しや軟化剤を使い管理をしますが、あくまでも対症療法であり病気の進行を止めることはできません。進行すると直腸憩室と呼ばれる袋が腸に形成され、そこにさらに便が溜まるようになります。また直腸壁は2ミリと薄いので、壁が破れ身体中に菌がまわりショック死につながる恐れがあります。持病やご家族のご希望から内科治療を選択することもありますが、多くのケースでは内科治療を補助的に行いながら外科手術を検討します。
以前はヘルニア周囲の自己組織を使い隙間を埋める手術が主流でしたが、筋肉は萎縮や伸展をするため5割ほどの高い割合で再発していました。現在は「ポリプロピレンメッシュ」という人工メッシュを使いヘルニア部を整復する手術を行っており、早期のヘルニアであれば再発率を低く抑えることができます。
当院の手術では、メッシュを肛門括約筋の下にある浅結節靭帯と、ヒトではイスに座ったときに座面に接する骨である坐骨結節とを繋ぎ合わせてヘルニア部を塞ぎます。強靭な骨や靭帯と結ぶことで、再びヘルニア部が飛び出すのを防げるのです。ただし、肛門の下のほうが飛び出すほど進行している症例では、メッシュによる治療が困難になります。よって、なるべく進行する前に手術を行うことが大切なのです。
ヘルニア部を塞ぐ手術と合わせ、状況に応じて結腸固定や膀胱固定、去勢手術を行います。手術の時間は合わせて2時間から2時間半ほどです。
さだひろ動物病院
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